「親父」
本当は親だとも思いたくないが、どんなに抗おうとしてもこいつと自分は親子の関係なんだとこいつを呼ぶたびに思う。
俺の声に振り向いたこいつは、俺の母さんでありこいつの妻でもあった人が死んですぐに秘書だとか言っていた彼女と再婚した。
俺はそんなこいつに嫌気がさし、明日から祖母ちゃんのところに行く。
だからもうこんな奴と会話をしなくても良いのだが、一つだけ。たった一つだけ言っておかなければならないことがある。
「あの人、泣かすなよ」
毎日毎日、俺の見えないところでずっと母さんは泣いていた。他の女のところに行くこいつのせいで。
俺は見たことがないが、看護婦さんが話しているのを聞いた。
どんなに苦しかっただろう。
どんなに悲しかったのだろう。
再婚をし、新しく戸籍上とやらでは自分の母だと思う気も呼ぶ気もない。
しかも彼女は、俺と母さんからこいつを奪っていった人間だ。
けど、
たとえどんなに憎い人間でも
あの時の母さんのような気持ちにはなってほしくない。
泣いて泣いて、自分のせいで捨てられてしまったと己を責めながら死んでいった母さんのような。あんな悲しいキモチ。
そんなの、味わってほしくないから。
「泣かしたら、今度こそ親子の縁とやらをきってやるよ」
母さんに向けなかった愛情とやらを、向けてあげてくれ。
彼女を泣かせたら承知しないぞ
(それが息子としての、最後の願い)
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