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あれがいいかこれがいいか、ああやはりこちらがいいか、いややはりあれが。
そんな風に先程から目の前を右往左往、やや頼りない足取りで並べられたものを検分するアキラに、シキはただ呆れたようにため息を吐いた。
目の前にそろえられたのは、美しい花だった。
なんでも侍女が育てていたものらしく、折角だからと摘んできたらしい。
アキラは大層喜んでいた。
なにしろ城の中で季節を感じられるものはほとんどない。
気候の変化と、少し植えられている木ぐらいしか、アキラにしてみたら季節の指針がないのだ。
彼にしては珍しく侍女に褒美を取らせ、彼女が摘んできてくれた両手でも抱えきれないものをさっそく部屋に飾るという。


「いいだろ」
「知らん」
「アンタにもあげるよ」


俺は優しいから。
アキラはしばし笑い、どれをあげようか、と一人ぶつぶつ言いながら悩みだすこと30分。
いまだに答えは出ず、最初のころは仕方なく付き合ってやっていたシキもいよいよ眠気を覚えてきた。
彼にしたら、すべて同じに見えるのだ。
すべて赤い花で、すべて同じような花の形をしていて、違うと言えば葉の形くらいのものだ。
そもそもシキに渡されたところで、飾る場所は殆どいない執務室になる。
寝室がアキラと一緒なのだから、すべてアキラが持っていればいいようなものなのに。
しかしそう言ってもアキラは納得するどころか、珍しく彼は怒りだした。


「アンタって何もわかってないよね、いつもそうだ」
「…どうでもいいだけだ」
「俺が上げるって言ってるんだからアンタは受け取ればいいの」


無茶苦茶な理論である。
とうとう侍女まで巻き込んで花を選りだしたアキラの後姿をしばし眺め、シキはゆっくり、音もなく退散した。
どうせアキラは気づかない。
あれだけ熱中していたら、シキがいなくても数十分は大丈夫だろう。
その間にしたいこともあるのだし。
シキは城の廊下に出て一息ついた。
そして、そういえばもうすぐ夏なのだと、少し上がってきた気温に目を細めた。


非常に煩く、ぺたぺたわざとらしく足音を立てて執務室にやってきたアキラは、あからさまに機嫌を損ねていた。
そんなに握りしめたら花が萎れる。
シキはそういってやりたかったものの、どうもなにか言おうものならきゃんきゃん噛みつかれそうだったため、口をつぐんだ。
アキラに噛みつかれると面倒だ。
特に、こういうときは。


「なんで待ってなかったの」
「仕事があるといっただろう」
「俺は待っててっていったよな?聞こえてない?」


ここまでくると我儘と判っていても笑って流すことはできない。
非常に面倒だけれども、摘まみだすほかないのだ。
しかしシキが立ち上がって、いざ排除行動に出ようとした矢先、いきなり鼻先に花を突きつけられた。
赤く、美しいけれども奇妙な形をした花だった。
何かに似ているような気がしないでもない、独特な形状である。
その上茎が長い。
これに見合う花瓶があるかどうかも疑わしいような花だった。


「アンタにあげる」
「…なんだこれは」
「毒草だよ」


投げやりに言い放ったアキラは、そのまま部屋から出て行った。
あの様子から行くと、きっと今日はへそを曲げ続けてろくに話も聞かないだろう。
シキは再び面倒だと思った。
そしてきっとこの花を枯らせたらさらに面倒だろうから、従者に言って花瓶をもってこさせた。
使っていないものの中にも、一応この高さに対応できるものもあったらしい。
シキはそれを卓上に置いた。
毒草。
アキラはそういっていたが、果たして。
彼はしばしその花をじっとみていたが、やがて視線を逸らして己のすべき仕事に戻った。
時折視界の端に映る花が何かに似ているのだと思っていたら、火だ。
そう気づいたのは、どうにか仕事がひと段落ついた後、アキラが暴れてしょうがないと侍女が報告してきた時だった。














君はきっと、僕の苦しみはわからないのだろうね







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19万打記念、ED3でアキラのわがままに振り回されるシキの話でした。淫靡さんは何かをシキのためにしようとしても、あんまりしゃべらないから余計にシキと食い違う気がしないでもないです。
ましろ様、甘いような苦いようなよくわからない話になってしまいましたが、お気に召したら幸いです。


リクエストありがとうございました!






あきゅろす。
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