寒いな。 アキラはそういいながら、下げていた袋から温かい飲み物を傍らの男に差し出した。 差し出してから、買い物についてきたシキの両手は荷物に塞がれていたと思いだし、苦笑する。 特に表情を変えないシキだが、さすがにここから歩いて帰るのは酷だ。 丁度見えてきた公園で休むとするか。 そう思ったアキラが口を開くより早く、シキが少し、立ち止まった。 つられてアキラも立ち止まる。 何処を見ているのかと思えば、道路の曲がり角だった。 「最近は確認しているのか?」 笑ったシキの背中に、ビニール袋をぶつける。 この男はきっとずっとこれを言い続けるに違いない。 嫌われるぞ、と言いかけて、彼は言葉を飲み込んだ。 シキは滅多に交友関係を見せないし、そもそも友人がいないような気がした。 自分という唯一の話し相手に嫌われることもない。 これでは、言っても仕方がない。 「ぶつかってないだろ」 シキと初めて会った理由も、自転車対自転車の衝突事故をこちらの不注意で起こして、だった。 あのときはまだ二人とも学生で、アキラの自転車が壊れたのだ。 そこからどういうわけかよく会うようになった。 歩きになって、ふらふら道を行く自身の背後から、よく声を掛けられた。 それがどうしてこうなったか、経緯は長くなる。 学校が同じであったことも影響しているのだろう。 「気を付けてるんだ」 言い放って先を行く。 背後からすぐ追いついてきたシキが、お返しとばかりにアキラの背中に袋を当てた。 振り返ったところを、額同士を軽くぶつけられる。 少し驚いて一歩後ずさったところを、笑われた。 「行くぞ」 袋を片手に集中させたシキに手を取られた。 手袋越しに、力強く。 いつだったかこうして手を引かれて歩いたことがあった。 二人で暮らす前だった気がする。 まだお互いにそういう真似は出来なくて、夕方から夜、歩いた。 そうしていたら帰り際に別れるのも惜しくなって、ずるずる同棲してしまったのだったか。 我ながらいきなり男と同棲とは、思い切ったことをしたと思う。 そして、してよかったとも。 「…離せよ」 「お前が望むなら離してやる」 それは昔にも言われた。 あの時のアキラと、同じ行動をとることとなる。 そういう意味では、変わっていないのか。 「あそこで休もう」 アキラは公園のベンチを指さした。 シキもそれに従い、歩いていく。 引かれたままのその手を、少し強く握り返した。 静かに、静かに降る君へ ―――――――――― 19万打記念、新婚パロディで二人のなれ初めの話でした。二人は出会いがしらにぶつかって、くらいがいいかもしれません。なんかきっと二人でいちゃいちゃしてたんでしょうが、あんがいきちんと付き合っていてもいいかもしれん。 春日忍様、なんかやたらいちゃいちゃしてますが、お気に召したら幸いです。 リクエストありがとうございました! [グループ][ナビ] [HPリング] |