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仕事帰りに突然降りだした雨は瞬く間に勢いを増し、今では数メートル先を見ることも難しい。
そんな土砂降りの雨にも拘らず、確保できた傘は一本のみだった。
盛大に眉間に皺を寄せるシキを見て見ぬふりをして、アキラはさっさと傘を開いた。
傘を確保できただけでもありがたいと思わなければ。
そそくさと、何も言わずに歩き出そうとしたアキラの頭をシキの手が掴んだ。
いったいどこから来るのかは知らないが、相変わらずの怪力で締め上げられた頭が悲鳴を上げる。



「俺に言うことはないか?」



力が緩んだ。
一応最近は喋る際に痛みがあると難しいのだと、学習してきたようだ。
アキラはシキを見た。
彼の赤い目は妙なことを言えばタダでは済まさないと、そう物語っていた。



「…売り切れてた」



アキラとしては無難な言葉を選んだはずなのだが、無慈悲に腹にシキの拳が入る。
恐らく本気ではないのだろうが、思わずその場に倒れかけ、先程食べたばかりの諸々を吐かないようにと懸命にこらえている最中、傘が強奪された。
後から来い。
そう言い残してシキはさっさと雨の中に消えた。
しばし痛みに呻き、ようやく動けるようになったアキラは走った。
塒に向かう道は幸い一つだ。
思いのほかゆっくり歩いていたらしく、シキに追いつくことは難しくなかった。
彼の横から傘の柄を無理やり掴むころには、もうアキラはずぶぬれになっていたが。



「俺が買ってきた傘だぞ」
「使いもまともに出来んお前には過ぎた道具だ」
「…小腹が」
「食べたところで此方に回らんのでは意味がない」



頭を小突かれ、うるさいとばかりにシキの左肩を殴る。
殴りながら、掴んだ傘の柄をどうにかこちらに寄せようと努める。
シキの傘の持ち方では、アキラはとてもではないけれど入れない。
これ以上濡れると、さすがに冷えそうだった。



「アンタはいいだろうけどな、俺は困るんだ」
「知ったことか」



シキは口角を上げて笑う。
いつものように、非常に腹立たしい笑みだ。



「お前が此方に寄れ」
「それは嫌だ」
「濡れるぞ」
「傘だけいるんだ、アンタはあっちいけ」
「ほら、来い」
「っ!引っ張るな!」



もう塒の前だというのに、二人は暫くその場で揉み合いをしていた。
服のところどころに泥が跳ね、息が上がるころになってやっと、アキラは雨が小降りになっていることに気づいた。
その頃にはもう傘の柄はお互いの力が入りすぎて曲がり、閉じることもかなわなくなっていた。



「アンタのせいだ」
「まだ言うか」



最近シキはなにやら楽しげである。
頬を摘ままれながら、アキラは思った。
彼が表情豊かになっても特に何かが起こるわけではないから、構わない。
無表情の人間に話しかけるよりかは、アキラとしてもいい気がした。
使い物にならなくなった傘を下し、塒へ戻っていくシキの背中を追う。
兎に角風呂に入ろうと考えていたのだが、体は思いのほか温まっていた。







うちにかえろう




――――――――――
19万打記念、とらあなEDで雨の中傘を取り合う話でした。あの二人、なかなかいい体してますからコンビニの傘で相合傘をしたら狭そうです。狭くても密着すればいいんでしょうが、なんだかとらあなさんは照れまくってそうだと思いました。
匿名様、傘の奪い合いというよりかは小競り合いになってしまいましたが、お気に召したら幸いです。


リクエストありがとうございました!










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