赤という色は、時として見ているだけで苦しくなってくる。 それは腹の底から湧きあがる、えも言えぬ感情であった。 これを言葉にして表すなら、何が相応しいか、アキラは小一時間考えていた。 そうしてようやく答えを見出した。 そうだ。 まさにこれが相応しい。 「暑苦しい」 吐き捨てたアキラの額から、汗が落ちた。 最近余程依頼主に恵まれないのか、何が悲しくて灼熱の異国の地で棒立ちのまま肌を焼かれているのか。 いよいよ我慢の限界が臨界に到達し、アキラは手当たり次第に怒りをぶつけだしていた。 その最後の標的が、シキの目。 その赤が、にくい。 せめて青や緑なら、見ている此方も心安らかであろうにあてつけのように赤。 これは許し難い。 「こっち見るな」 「ならば貴様も此方を見るな」 「アンタが見るから見ているんだろ」 「いちいちこちらを見るなら、俺も見るだけだ」 かみ合わない口論が、また腹立たしい。 アキラが思いきりシキの足を踏もうとしても彼は避けてしまう。 ならばと腕を振り回せば、それすらかわされるどころか掴まれた。 罵倒しようとしたその瞬間、読んでいたかのように額を叩かれる。 抗議のために口を開けば、腹に拳がめり込んだ。 思わず体を折って胃液を吐き出さないよう堪えると、上からは笑い声が降ってきた。 これ以上の苛立ちにさいなまれたことがあっただろうか。 「…アンタ斬ってやる」 「仕事中だ。相手は後でやってやる」 涼しい顔で言い放った男の脛を鞘で叩く。 一見表情が動かないように見えるけれども、確かにわずかながら、眉が上がった。 「抜け」 そうアキラが言い放つのと、シキの白刃が抜かれるのはどちらが早かったか。 周囲の人間が何事かとかなり遠巻きに見守る中、甲高く刀を打ち合う音が響いた。 膂力も技術もシキが上である以上、アキラに反撃の機会があるとしたら、隙をつくしかない。 その隙すらシキにはない。 隙がないなら、作ればいい。 蹴り上げた砂は、目くらましにはなった。 生憎シキの目を潰すまでにはいかず、むしろこちらの目がやられた。 思わず呻いたアキラだったが、次の瞬間反射的に一歩引いた。 その鼻先を、切っ先が通過した。 反応が遅れたら斬られていた。 「お前に向かんことをするからだ」 その声が聞こえたと思ったら、首筋を鞘で強打された。 飛びかけた意識は、なんとか持ったものの、気が付いたら暑く熱せられた大地にうつぶせにされていた。 背中にはシキの足が乗っている。 それも、アキラの体に負担が掛かり、かつ骨は折れないよう、うまく力加減がされていた。 「あつ…!」 「跳ねっ返りも度が過ぎれば可愛らしくないものだな」 顔が焼ける。 そう訴えても、シキは、どこか楽しげに笑っている。 「お前の躾を一からやり直してやる」 躾という名の拷問じみた行為が、アキラの脳裏をよぎった。 その記憶と暑さから、思わず悲鳴を上げる。 対してシキは先程から妙にツボに入ったようで、やたら笑っていた。 気色悪いことこの上ない。 道行く通行人たちがどこかかわいそうなものを見るような視線を投げかけてくる中、アキラは一人、この状況から逃げるすべを考えに考え、結局、脱力した。 刺さる体温 ―――――――――― 19万打記念、とらあなEDで、暑くてうだる二人の話でした。二人は厚さが我慢の限界を超えると刀持ち出しての喧嘩を始めそうだなと思いました。本人たちは本気ではないんでしょうが、周りから見たら殺し合いもいいとこでしょうね。 あきかな様、喧嘩している二人ですが、多分この後二人仲良く熱中症で病院行きになると思われます。ぐだぐだになりましたが、お気に召したら幸いです。 リクエストありがとうございました! [グループ][ナビ] [HPリング] |