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締め切り間近のレポートを必死に書き上げている人間の背中に寄りかかる趣味は、この男にはどうやらあるらしい。
わざわざ背中から回してきた男の腕がアキラの腹に触れても、それを機にしてやれるほどアキラに余裕がなかった。
何しろこれで単位が落ちるか否か、ひいては進級できるかどうかが掛かってくる。
そういう試験をサボるつもりはなかったのに休まざるを得なくなったアキラに対する、教師なりの温情なのだろう。
それにしても文字数が殺人的な量であるが。



「つまらん」



そう吐き捨てた男に答えてやれる余裕もない。
黙々と文字を打ち続けるアキラに飽きたのか、シキはため息をついて離れて行った。
これで落ち着いてレポートを作成できる。
そう確信したアキラは、ますます前のめり気味に文章を紡いでいった。
あともう少し、といったところで、不意に彼は、部屋ががらんとしていることに気づいた。
普段なにかと声をかけてくる同居人がいないだけで、この部屋は異様に静かだった。
太陽もいつの間にか傾いていて、同居人が何時に部屋を出たかもわからない。
ただ、机の上に昼食が作っておかれているということは、昼前に出たのか。
帰りが遅い。
成人男性なのだから、帰りが遅いくらいどうということはないだろうに、その時のアキラにはそれが妙に癪に障った。

いつからか、シキがいないと落ち着かないようになっていた。
ここ数か月は毎日顔を突き合わせているから、余計にそう思うのだろう。
アキラは自分以外誰もいない部屋になれているつもりであったが、どうやらそうでもなかったようだ。



「…どこ行ったんだあいつ」



ポツリと漏らした声が響く。
余計に、独りであることを意識してしまう。
アキラはぼんやり外を見、パソコンを閉じた。
そして財布と鍵だけを持って、サンダルをひっかけ表へ出る。
暑い。
夏らしい陽気だ。
夕暮れ時もあって家々から食欲をそそる匂いもする。
無性に、シキの料理を食べたくなった。



「何をしている」



家からそう離れていない位置で、シキとばったり鉢合わせた。
彼の手には今日の献立なのだろう、様々な食材の入った袋が下げられていた。



「散歩」
「その格好でか」



言われてみれば、寝間着のまま着替えていない。
構わない、と思ってしまった。
シキがいないことのほうが、彼にしてみれば問題だったのだ。



「そっち寄越せよ」



差し伸べた手で袋をふんだくり、利き手に持つ。
空いた右手で、シキの左手を掴んだ。
にわかにシキが固まった。
何か恐ろしいものでも見るような、彼にしては珍しい目線を寄越す。



「…壊れたか」



嘆くような声音に噛みつくことはなく、アキラは歩き出した。
歩幅が違うから、先導しようと思っても結局引きずられるように歩くしかないのだが。



「今日だけだからな」
「いよいよ婚姻の意思を固めたということだな?」
「アンタ馬鹿だろ」



アキラはそう吐き捨てて、笑った。
気が付いたら、あの重石のような心の感覚はなくなっていた。







あいつの手元





――――――――――
19万打記念、学生パロディでいちゃいちゃする二人の話でした。学生シキとアキラは手を繋ぐだとか一緒に買い物だとかを意外とナチュラルにやりそうだと思いました。同棲もいいとこですよね。
沙耶様、いちゃいちゃというリクエストでしたが、果たしていちゃいちゃしたかどうか大変不安があるものの、お気に召したら幸いです。




リクエストありがとうございました!









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