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「天の川って、晴れないと渡れないんだよな」



いきなりそう問いかけられたシキは、そこでやっと今日が七夕なのだと気付いた。
今日はあいにくの曇り空で、仕事前も仕事後も、ついぞ星など見えなかったから気にしていなかった。
この男は時折妙な話を仕入れてきては、こういう時に聞くのである。
きっと今回の七夕は、あの情報屋にでも吹き込まれたか。



「だったらどうする」



シキの問いに、すぐそばにいる青い目が泳いだ。
まだ少し濡れている髪を引っ張ると、抗議代わりに手が飛んできたが、本気ではない。



「一年に一回なんだろ。なんで渡らないんだ」



さてこの話題をどう逸らすか。
そもそもここが曇っているだけで、余所は晴れているのだとか言ってはいけないのだろう。
こんな仕事をしているにもかかわらず、どこか思考が現実から飛んでいる節のある連れの納得するような答え。
難しいものだ。



「お前ならば行くのか」
「居るんだって判ってるならどうやっても会おうとするだろ」



アキラの目は、普段とは違う色をしていた。
ことこういう話題の時、彼は我を見失うことがあった。
時折覗く、シキのせいでできてしまったアキラに似合わぬ醜い傷口を覗き込みながら、シキはため息をついて、笑った。



「溺死が落ちか」
「アンタな」
「まず道具がいるな」



道具。
目を丸くしたアキラの鼻をつまみ、続ける。



「船がいる。航海に耐えられるような保存食もな」
「それでわたるのか」
「俺なら、そのまま女を連れて帰るが」



そう言う話ではなかったか。
シキも正確に七夕のいわれを知っているわけではない。
二人を隔てる川が何故あるのかも知らない。
ただ、あくまでも彼ならそうするというだけである。



「お前はどうする」



アキラを見る。
彼は、少し考えて、苦笑した。



「…そんな無茶な奴だったら、こんな話もないんだろうな」



そう言いながら、体を動かす。
至近距離に寄ってきた青い目が、まっすぐシキを見た。
仮にシキが、そういう立場であったなら。
一度手放しておいてなんであるが、この青い目を手放すことは、いささか考えにくいものだった。



「俺は待つのは御免だぞ」



言うようになったものだ。
シキは鼻で笑い、アキラの額を一度だけ、思い切り叩いた。
痛みに呻くアキラをしばし見ていた彼は、それで気が済んだようで、それきり口を閉ざして眠りについてしまった。
最後に聞こえた罵声を、子守唄にしながら。










はてしなくはかないはずのきみは





――――――――――
19万打記念、とらあなEDで、七夕の話でした。一年に一回会えないだけじゃ我慢できないがとらあなさんの言い分でしょうが、きっと素面では言えないでしょうね。シキを失いかねない状況に置かれているから余計に、離れたがらなさそうです。
ライラ様、七夕の話ということで、かなり時期がずれてしまいましたが大丈夫でしょうか?お気に召したら幸いです。



リクエストありがとうございました!








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