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今年の夏は例年になく熱い。
その影響は、彼ら軍人を直撃した。
なにしろ軍服が黒である。
そのうえ、このニホン国自体、モチーフとなっている色は黒であることが多い。
おかげで暑くて暑くてたまらないのに、軍人であるから着崩すこともできない。
そして、その炎天下、この長ったらしい演習である。
国内外に力を示すため定期的に開かれているこれは、全世界向けに放送されている。
そこで誰かしら斃れようものならば、それこそ笑いものだ。



「暑い」
「そうですね」
「暑い」
「そうですね」
「暑い」
「閣下」



壊れた機械よろしくそう漏らす国家元首の横に立つアキラは、たしなめながら表情一つ動かさない。
代わりに、先程から滝のような汗を流していた。
それこそ汗で目が開けない状態であるものの、微動だにしないその姿はさすが親衛隊隊長と、羨望の眼差しを向けるに値していた。



「暑い」
「うるさい」



口調が、少々崩れてきていたが。
ここ数日暑さのために素麺しか食べていないシキは、倦んだ眼差しでアキラを見た。
そんな仕草の一つ一つも様になってしまう。
このニホン国を総べる王としては、いつカメラに抜かれても問題はない。



「躾直しが必要だな」



音声が拾われていたら、そうはいかないのだろうが。



「言葉には気をつけろ」
「いい加減暑苦しいんです」
「アキラ、…まったくお前はやはりじゃじゃ馬らしい。そこが愛らしいのだがな」
「聞いてんですか」
「反抗も、お前のものなら愛らしい。俺が許すのだから、存分に反抗しろ」
「頭湧いて」



そこまで言ったところで、アキラは奇妙な沈黙の仕方をした。
最初は己の発言の罪深さを悔やんだのかと思っていたシキだったが、不意に表情を曇らせた。
アキラの顔色が蒼白である。
それを見た瞬間、いきなりシキは立った。
周囲の側近の慌てふためいた視線を、カメラのレンズがこちらに集中することもわかっている。
それでもこの頭の固い側近は、シキがそうしなければ倒れるまでここにいるだろう。
腰を抱くような形で先導する。
アキラは何も言わずについてくるだけだった。
言うだけの気力が、もうないのだろう。
もっと早く気づいていれば何らかの手を打てただろうに。
集まってきた部下に医師の手配をさせ、控室のソファに体を凭れさせる。



「…お恥ずかしい」
「お前は依怙地だな、何故言わなかった」



ネクタイを緩めて、上着を剥ぐ。
それだけでアキラは幾分か楽になったようで、呼吸が少々深くなった。



「閣下の式典です。お戻りください」



シキの問いに答えず、アキラはそれだけ言って目を閉ざした。
本格的に体調が悪いらしい。
ここにいたところでシキにできることはない。
だが、王だけの玉座に何の価値があるだろうか。



「残る」
「閣下」
「お前の自己管理の無さをかみしめろ。そのために俺はここにいるのだぞ」



シキは意地悪く笑いながら、不満げなアキラの頬に触れた。
そう間をおかずやってきた医師団に処置を任せながら、彼の手は、どこかしらアキラの体に触れていた。











やわらかなはだ




――――――――――
19万打記念、ED2で、夏バテするアキラの話でした。アキラは最後まで意地を張って倒れそうになっても言い出さなさそうです。それで総帥に怒られても、やっぱり気づかないうちに無理してしまうアキラと、世話を焼く総帥はかわいいと思いました。
湊様、熱中症でふらふらになったアキラですが、きっと総帥と一緒にゆっくり休んでいればそれもまた幸せだな、と思うのかもしれません。お気に召したら幸いです。




リクエストありがとうございました!








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