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今画面に映っている男は、アイドルだ。
アキラにはなじみのない、きらびやかな世界で笑い踊り歌う、そんな男だ。
それだけなら無数にいる芸能人の中の一人として、アキラの意識にも残らなかっただろう。
彼はアイドルという肩書ももちろんのこと、恐ろしく美しい男だった。
完全無欠。
まさに彼は、その言葉が似合う男だった。
容姿はもちろん所作や言動も含めて、すべてが洗練されている。
彼が映っているだけで、つい画面に見入ってしまうような力もあった。
アキラはため息を吐き、今日も今日とてその男とその男が所属するグループの特集を組んでいる番組を間の抜けた顔で見ている。
こうしてみると、また一段と綺麗だった。
彼は舞台で歌っている姿が似合うように思う。
だから、アイドルという職業もあっているのかもしれない。
本人の心は知らないけれども。



「消せ」



不機嫌を隠そうともしない声が背後から飛んできて、慌ててアキラはチャンネルをニュースに替えた。
同居人は、顔を洗ってきたようで首からタオルを引っ提げていた。
適当にひっかけてきたような、ラフな服装であるが、それすら彼の魅力を損なわないどころか逆に色気すら漂わせている。
以前ほどではなくなったにしても、今でも鼓動が少々上ずる。



「起きてたなら言えよ」
「気づかんお前が悪い」



そう減らず口を叩く相手が先程のアイドルなのだから、人生何が起こるかわからない。
テレビに映っていた穏やかな笑顔をかなぐり捨てて、乱暴にソファへ身を投げ出し置いておいた朝食を食べる姿は、とても先程のアイドルには見えなかった。
人間常にあれでは持たないということなのだろう。
苦笑して男を見ていたら、こちらを見もせず手招きされた。



「アンタが来い」
「食わせてやっているのは俺だ」
「別に養ってもらってるつもりはない」



言い返したつもりが鼻で笑われた。
それはそうだろう。
アキラはいわゆるフリーターで、この男はトップアイドルだ。
こんなマンションにも、フリーターでは住めない。
数か月前まで一介のフリーターだったアキラが、何の因果かこの男がコンサートを開く際の設営スタッフに選ばれてしまったことが、すべての発端だった。
なぜかアイドルは、コンサートが終わったその足でアキラを居酒屋へ連れて行き、たらふく酒を飲ませて、前後不覚に陥ったところを部屋へ持ち帰った。
あくる日、アキラが目を醒ましたときには二日酔いの頭痛と謎の腰痛と服が行方不明、そして傍らに同じく全裸で寝るアイドル、という奇奇怪怪な状況に陥っていたのである。
それ以来どういうわけか、ずるずる同居する羽目になってしまった。
抵抗したところでアキラに所持金はない。
なによりどういうわけか、同棲の男なのに惹かれてしまっていることも否定はしない。
とはいえ男は芸能人で、忙しい。
今日のように、一日いることは珍しいから、しょうがないので甘やかしてやるのも悪くはない。
そばへ寄っていく。
すると伸びてきた手がしっかりアキラの腰に回された。
この男にとって、抱き心地のいい枕のようなものなのだろう。



「シキ」



男は、名前すらも美しい。
稀代のアイドルは、ソファに横たわったまま作っていない笑顔を浮かべた。
それはどことなく獰猛で、獣のようであったが、好ましかった。
何よりその特異な赤い目が、アキラだけを捕えているということに、脳が痺れそうだった。











盲目の兆し






――――――――――
19万打記念文、芸能人シキと一般人アキラの話でした。アイドルシキとかとても似合うと思うのですが、何しろシキなので表と裏の顔の使い分けが早そうです。それに翻弄されるアキラもいいかもしれませんね。
ぽん様、大変申し訳ないことに裏をいれることができず、申し訳ありません。芸能人パロとしても、これでよろしかったでしょうか?お気に召したら幸いです。


リクエストありがとうございました!






あきゅろす。
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