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メリーゴーランドは、好きだ。そんなことはいつも考えることは無いけれど、こうやって遊園地に来ると一番目を引かれ、心引かれるものは、やっぱりメリーゴーランドだった。


『 merry-go-round 』


華やかでせわしい遊園地で、メリーゴーランドは一際静かに時間が流れ、オルゴールのように響くメロディーにのせて綺麗な装飾を施した白馬が、まるで宝石箱のような世界をゆったりと歩んでいて、それでいて、とても生き生きさえしている。
自分はいつのまにか、それに心を奪われていた。


自分は子供の頃、あの冷たい実験台と、薄暗い人工的なライトしか知らなかった。もちろんそこには夢も宝石箱のような世界は有りはしなかった。有ったのは孤独と絶望だけ。
目は其処で黒に近い色に慣れてしまったから初めてメリーゴーランドを見たときは、キラキラしていて不思議な感覚だった。
ロックオンに対してこれが恋だと思う前から自分を虜にしていたのだから、もしかしたらアレルヤの初恋は、メリーゴーランドだったのかもしれない。




「アレルヤ」

でもやっぱり一番はロックオンだ。
メリーゴーランドには自分を包んでくれるあの温もりはないのだから。

「ほら、ココア」

「すいません、有難うございます」

渡されたホットココアを一口飲むと、ジワリと熱と甘さが広がって頬が緩む。

「メリーゴーランド、見てたのか?」

「ええ、とても綺麗だから」

小綺麗な顔がメリーゴーランドを見つめ微笑むと、ロックオンは一瞬ドキリとした。ああ、やっぱり、自分はアレルヤに恋をしているのだと改めて思った。

「ー…乗るか?」

「え?」

「いつも見てるだろ、乗りたいのかな、って思ってたんだ。メリーゴーランド見てるときの目、全然違うからさ」

「僕もう20歳ですよ」

「そんなの関係ないだろ、子供が乗るものって誰が決めたんだ?」

「でも……僕は見ているだけでいいんです。あれは子供が夢を見るためのものだから」

「大人も、夢を見たっていいんだぞ」

ギュッと握られた手から彼の温もりが伝わってくる。
本当に、優しい人。
けれど、やっぱり乗るのは断った。不思議そうに顔を覗くロックオン。

「だって、こうやってあなたと見ている方が……」




メリーゴーランドが、素敵に輝いて映っているから。


「ははっ、ごめんなさい。変なことを言って」

「いや、……うん」

「……どうかしました?」

「ああ、それが…さ、」





「キス、したくなった」






「!!!!」

メリーゴーランドのイルミネーションのせいなのか、ほんのりロックオンの顔がピンク色に染まっている気がする。


……イルミネーションのせいじゃないと思いたい。
照れているのだと、思いたい。
少し砕けているところを、もっと見たい。
大人の見栄だとか、プライドとかを全部捨てて子供のように素直になることだって必要だ。


「……いいですよ」


二人きりでないときはアレルヤは恋人がすることの殆どを拒絶していたはずだ。けれど今日は、拒むことをせずに、受け入れた。


「ぅ……ん……」


ココアの甘さに、ロックオンの飲んだ珈琲のほろ苦さが伝わる。
回るメリーゴーランドの白馬が、今だけは自分たちのために夢を乗せているようでいつも以上に眩しく、そして恋しかった。






「また行こうな、このメリーゴーランドを見にー……」




あきゅろす。
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