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武儀山という男は、全く平凡な変人であった。
10円ガムのアタリは、しばらく逡巡するくせに絶対交換に行けないし、好きな子が出来ればあらゆる友人を経由してアドレスを手に入れようとする。煙草も酒も人並みにやるし、バイトも大学生らしく掛け持ちだ。
奇抜なのは、彼がほぼ毎週髪の色を変えることだった。むらさきやきいろやぴんくやみどり。あおやあかやちゃいろやみずいろ。それはもう色とりどりに髪を塗りたくる。

「ムギヤマ、頭シンナーくさい」
「ヘアカラーにシンナー入ってたっけ?」

今日の彼の頭は銀色らしい。どう見ても見事な白髪にしか見えないのだが、彼が銀だと主張するからには銀なのだろう。

「じゃあ何、それはなに臭なの?」
「ムギヤマ臭?」
「キモ」
「いや冗談じゃん。本気で突っ込むな」

ひとしきり笑うと、どちらともなく沈黙する。ムギヤマの、いつもダルそうに眇められている目は、気付くとほぼ必ず下を向いている。もう一度気付くとほぼ必ず舟を漕いでいる。ふと視線を向けると、閉じかけた目を見つけたので話題を振ってみた。

「お前さ、その金どっから来んの」
「その、って?あ、ヘアカラーの?」
「うん」
「んー…あそこ」

そういってムギヤマが指差したのは自らの真上。つられて見上げた先に当然ながら金蔓になりそうなものは浮かんではおらず、ムギヤマに視線を戻す。

「天空の城?」
「何、お前には見えるの?あ、あれか?俺にも見えた」
「違う、あれ鳥。じゃなくて、」

いつもの調子で流されそうになった話題を、慌てて引き戻す。思い出したように、ああ、と言うとムギヤマはいつもの口調で話し始める。

「俺の母さんね、」
「うん」
「ヘドバンで両目失明したの」
「は、」
「網膜剥離って知ってる?」

他の観客と頭ぶつけてさ、とムギヤマは淡々と喋った。

「内出血が脳の血管圧迫してて」
「……」
「半年して死んじゃった」
「…死んだ、てお前」
「だからいつか俺もヘドバンで死にたいんだ」

今の話の何をどう取って「だから」となるのか全く謎であったが、ムギヤマは真顔で遠くを見つめていた。彼は家族のことを語らない。正確には、語るような話題を振ったことがない、なのだが。何か言いたいことはあるはずなのに、自分が何を言いたいか分からない。なんとなく何も言えずに、ムギヤマと同じくらい遠くに視線を迷わせた。

「うちの母さんバカだから、最後に虹が見たかったってずっと駄々こねてたのさ」

「…うん」
「んで、お空からでも虹が見えるようにーっていう、アホな母親の願いを聞いて、頭虹色の親孝行な俺」
「うん」

そこでぷっつりと会話が途切れ、遅れて静寂を破ったのはムギヤマの携帯だった。彼の好きなメタルパンクの着うたがうるさいくらいに響く。

「何?メール?」
「…フェスのチケット、取れたって。一緒行くよね?」

彼が死ぬときは虹も一緒で、たぶん自分も一緒なのだろうな、とうっすら思った。


ヘッドバンギング
































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