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マチルダは知らない。

彼女が大切に育てていた鉢植えには蛙が眠っているのだが、それは雨蛙ではなく疣蛙で、その体液にすっかり毒された植物には異色の花が咲いていること。

彼女がパガーニの店で譲り受けたという鍋はパガーニ夫人の愛用品で、夫人は先日魔女裁判で有罪判決を受け、惚れ薬を作ったとして商品の鍋全てが押収されていること。

彼女がマホガニー製だと信じているお気に入りのロッキングチェアは、実は木目調に塗られた鹿の骨で、肘掛け部分の曲線などには雄鹿の肩甲骨、もしくは雌鹿の角が使われていること。

マチルダは知らない。

彼女がいつもパンを焼くかまどの下には、火鼠が住み着いているが、その毛皮はかまどの火同様に赤く、鼠は十日に一度、死んではまた生き返るのを、私の知る限り二年は繰り返していること。

彼女が出掛ける度に、この家は帰ってくる彼女を最高の状態で迎えようと必死で様相を整え、彼女を手招きで迎えると彼女が扉をひとつ潜る度、キスを投げるのを忘れないこと。

マチルダは知らない。

もう動くことのないこのがらんどうの彼女の家に、彼女を待っている男がいること。その男マキディ・シャロンはまさしく私であるということ。






異端
































あきゅろす。
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