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わけがわからない、と思った。

彼は突然消えた。
私の部屋にポールリードスミスとセブンスターを置いたまま。

わけがわからない。

私の脳は三日間そればかり繰り返す。そしてぼうっとしながら、この部屋に散らばる彼との記憶の断片を繋ぎ合わせることに専念している。

三日前、彼はだいぶ上達したギターを私に披露した。演奏の途中、コードチェンジに失敗したときのはにかんだ笑みを、私は鮮明に覚えている。

もっともっと前、ギターのことなど何も分からない私に、彼はそのギターがポールリードスミスで、それがいかに名器であるか、いかに苦労して値切ったかをオーバーアクションで精一杯説明した。

一目惚れだったんだよ、と確か彼は言っていた。彼がギターに夢中になっていた何ヶ月かの間、私は子供のようにそのギターに嫉妬さえした。すると彼は困ったように笑って、ポールリードスミスは二番目の彼女だからと言った。

今、彼はもういない。

彼は私とポールリードスミス、二人の女を置いて消えたのだ。私は彼の二番目の彼女を呆然と見た。

「結局置いてかれたのね、あたしたち」

呟いてみても、彼が消えた現実は現実として私の中に落ちて来なかった。 「どこ行っちゃったんだろね、祐一のバカは」

独り言のような独り言でないような言葉を呟いて、私はセブンスターを一本くわえた。ライターは見当たらない。すぐさま諦めた私は二番目の彼女を見たのだが、ピンぼけていてよく見えなかった。火の点いていない煙草は思わず顔をしかめるほどに苦い。視界が揺れて、ぼつっという落下音がやけに大きく聞こえた。

隣の部屋から、甘ったるい桃と線香の匂いがした。

私はそれに気づかない振りをして、ポールリードスミスを背負うと安アパートを飛び出した。
アパートを左に真っ直ぐ行った広い道路は、海に面していて急なカーブを描いている。

海がもっと見たくて、苦い煙草をくわえたままギターを背負い直し、足を踏み出す。右側から大型車の重低音が聞こえる。そんな音よりも彼の声が聞きたくて、私はゆっくり目を閉じた。



煙草とギター
































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