室井の鼻は真っ赤になり、目は寒さで腫れぼったく潤んでいた。反対にかさついた唇は色を失って白い。頭には粉砂糖を振ったかのように雪が積もっていた。
ただでさえ寒そうなのに、泣きじゃくっている室井は鼻水まで垂らしていて、なんだかとても哀れな顔だ。
「柚木みたく、犬派じゃ、ない…けど」
しゃくりあげながら室井は言う。鼻声だし聴きづらいことこの上ないのだが、わたしは黙って耳を傾けていた。
「背だって、高くな…い、し」
「……」
「クールでも…つり目で、もないし」
「……」
「…かっこよく…ない、けど」
「……」
「もう煙草…吸わ、ないし」
「……」
「く、クスリだって…やめたし」
「……」
「僕、こんな…だけど…」
「…室井、」
つんつんしたショートヘアから覗く、小ぶりな耳まで真っ赤で、本当に寒そうだ。室井が涙の跡をごしごしこすって、頭の上からはばらばらと雪が零れた。
「柚木が好き」
室井は2回目になるそれを、小さく呟いた。聴き取りづらい声だったはずなのに、わたしの耳にはとてもはっきり響いた。
この真冬なのに、室井はコートも着ずに雪をかぶっていた。わたしと同じセーラー服のスカートから伸びた脚がすらりと細くて、室井は紛れもない女の子なのに、低くも高くもない声で、情けなく泣きながらわたしにそう言う室井は、絶対に男の子だった。
「ばーか、」
わたしは半ば呆れながら室井に微笑んだ。
「鼻水たれてる」
「…柚木ぃ、」
「煙草くさい室井も嫌いじゃなかったけど、」
「……」
「この不細工な室井の方が好きだなあ」
室井は真っ赤になった目をぱっと開く。涙で濡れに濡れた瞳は、面白いくらいにはっきりとわたしを映した。それが更にまたみるみる潤んでいく。
わたしはそれを眺めて、ティッシュを差し出しながら苦笑した。そしてこんなに愛らしいという言葉がぴったりな生き物は他にいなかったな、と、少し半生を振り返った。
(性同一性障害の室井、室井をちゃんと男の子として見てる柚木。)
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