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5.
抜け殻の様な肉体が二つ並んで転がっていた。
諸手を広げたベッドはどちらの躰も易々と抱き留める。獄寺は自分の腕に乗った形のよい頭を撫でた、青白い陶磁器の様な頬に一度だけ口付ける。冷たく柔らかな感触が唇を受け入れた、滑らかで造りものを思わせる程にきめ細やかな膚、こんなにも美しいものは他に存在しないと獄寺は人生何度目か判らない確信を覚えた。と同時に薄く規則的な寝息を確認して安堵する、綱吉は度々こうした行為の後あまりにも深く眠りに落ちることがあった。その度に言い知れぬ不安を感じてまた同じ様にして獄寺は生を確める、まるで眠る母親を無性に嫌う子供と何ら変わらぬ焦燥を抱く自身をいつも自嘲していた。
この世にたった独り取り残された様な錯覚に陥る愚かな自分。静か過ぎる蒼い黎明は窓の外に世界を残していない気がした、静謐さに物体は個有形を保てず万物は存在を喪失させてしまったかもしれない。獄寺は空いている方の腕を伸ばし煙草を一本引き抜く、ベッドヘッドに置かれた箱は少し擦れただけで殆ど動くことはなかった。陽が昇れば、また何もかも元通りに動きだすのだろう。獄寺が空想した様なことなどはなく建築物も人も何一つ不変とそこに存在している筈だ再びの生活が再開されるこの蒼く短い時間を忘れて、それが惜しいと思った。獄寺は白煙を燻らす、室内をタールで汚しながら。「……可愛かったな」10代目。数時間前の狂騒めいた痴態も、白んだ光が射して自然と目を醒ました頃には綺麗に忘れ去っているのだろう。一時的な動物的衝動を記憶することはない綱吉の脳について。全く以って惜しいばかりだと、不謹慎にも男は深く思った。


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6.
「……だー…、もう最近言葉の通じない輩ばかりでマジ困る」

日曜の保健室で惰眠を貪る中年男に赤子のライフルが火を噴く真昼、リボーンに連れられ綱吉はシャマルの元を訪れていた。
「お前の蚊でコイツを治せ」
「いや俺は男は診な「死にてーらしいな」目にも留まらぬ早撃ちと名高い小意気な殺し屋は、瞬く間にその銃口を男の顔面に突き付けてニヒルに笑った、それも零距離射撃のスタイルで。
「………あー、世界中の人々を老若男女問わず救うのが実は俺の目標だったりするんだ、なあ落ち着こうそして話し合おう」
「オメーと話すことはねーがさっさとツナを診ろ」
「微笑ましい師弟愛だこって……………。…、…すいません」
軽口一つが命取り。セーフティなどとうに解除された鉄の凶器にキスをされ白衣の両手は宙空へ掲げられた。


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か細く高い羽音が止んで綱吉は首筋にごくわずかな刺激を覚える。
盛大な安堵の吐息と共にもうこの数日間は生きた心地がしなかったとぼやく少年へ家庭教師はすかさずの蹴りを入れた。「なまっちょろさも大概にしろよ」しかしそれすらも今の綱吉にとってみればようやく再び手にした日常を実感させるものに異ならず噛み締める喜びに目尻すら赤く染める、が。「ん」
突如として頭部に生じた何やら得体の知れぬこそばゆさに綱吉は眉をしかめた。「そろそろか」にやにやと、日頃からにやけくさい顔を更に猥褻にしてシャマルは頬杖をつきながら少年を見遣る。「え、なに」一人当惑する綱吉を尻目に医者と孩児は意味深な目配せを交わした。
「獄寺の時は使わなかったんだろ」二人は少年の頭部に視線を固定させ。「ああ隼人ん時は自然治癒だ」あいつにゃ勿体ない高等なモスキートだからな。

「似合ってるぜ、子猫ちゃん」
状況が把握出来ずに呆然と立ち尽くす綱吉へ、男はおもむろに手鏡を手渡した。
「な、なにこれ」
蜜色からぴんと品よく飛び出すそれは大きな三角、いわゆる。
「猫耳「獣耳」
平淡に、且つ重ねて述べられた事実は少年の意識を易々と刈り取っていった。


〔次〕

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