[携帯モード] [URL送信]
*****

3.
もうすぐ零時をまわる。
綱吉はまだ眠れずにいた。
広いこのベッドは獄寺が綱吉の為に購入したものだったがまだ一度も二人で横になったことはない。とても良い寝具だと思うけれどこんな心細い夜には幾分広すぎる様に感じた。キングサイズなんて一人で使うものじゃない。綱吉は寝返りをうつ。やはりどの角度からでもシーツは快く迎えてくれたが少年の不安が掻き消えることはなかった。
眠れもせずすることもなく時間を持て余して再び視線を時計へと遣る。綱吉に見られていても気にするそぶりはなく相変わらず規則的に針を進めてゆくそれが何だかリボーンみたいだと思った。時刻はもうじき零時。
はち、なな、ろく、ごー、よん、さん、にい、いち……。
どくん。
どくんと、胸が急に強く打つ。長針も短針もすべてが零に揃ったのと同じくして。更には次第に脈動が速まっていった、全身の血があまりに急ぎ足に駆けて沸騰しているんじゃないかというくらいに躰中が熱い。綱吉は恐怖に竦む喉を叱咤してなんとか声をしぼり出した、ごくでらくん。思ったよりも遥かに小さすぎる高く掠れた音が漏れた。その間も心臓は張り裂けそうな程にせわしなく何度も打ち鳴らされ、ああ、しんじゃうのかな全身の筋肉に力が入らず、唾液が口の端から零れ頬を伝い喉をたどってシーツを汚してゆく。
「呼びましたか」
空耳かと思った。平然と、耳に馴染んだ声がして綱吉は泣きそうになる。そういえば彼の聴覚は頗る良い、頚は持ち上げられないけれども目でその姿を捉えれば確かに声の主はノブを握りそこに立っていた。嗅ぎ馴れた煙草の匂いが漂う。彼は一歩室内に踏み入れてから立ち止まるとそれからゆっくりとベッドへ近付いてきた。フローリングがへたれた軋み声を上げる。
「……く……へあ、……、…」
獄寺君と呼ぼうとしたが腹に力が入らずにそれは叶わず意味を成さない音が零れる。
「大丈夫です」獄寺は眉間を寄せながらしかし優しげな口調で言い聞かせた。落ち着いた低めの声で、安心させるように屈んで綱吉の耳元に囁く。「あと数分安静にしてましょうか」まだ青ざめている綱吉の震える薄い肩を撫で髪にキスをおとす。
広いてのひらに安心感を覚え、目線を上げて獄寺を見ればもう一度。「大丈夫」
そういわれるとどうしてだろう本当に楽になってきている気がして綱吉はゆっくりと息を吐き出した。脈拍はまだ速いままだけれど怖い感じはもうしない。
ごくでらくん。心のなかで大切に呼び掛けて瞼をおろした。


*****


「落ち着きましたか」
「……ん」
スツールに腰掛け経過を見守っていた獄寺は様子をみて軽く呼び掛けた。その声に応じ綱吉も静かにその場で起き上がったがその刹那。妙な感覚が生じるのを感じ反射的に思わず身を固くする。手足の自由は利くようになっている、しかし躰中、布地に皮膚が触れているところからくすぐったいような焦れる熱さとそれからもっと異なる感覚が芯から沸き上がってくるのだ。もどかしい。それは確かに覚えのあるものだった、汗をかいたてのひらが無意識にシーツを握ればそこからも騒ぐ衝動が生まれる。手先の神経までおかしな程過敏になっていた、拍動は、また増してゆく先程とは異なる意味合いで。
「っ……」思わず漏らしそうになった声をかみ殺して獄寺に背を向けた。その様子に気付いていながら男は無関心を装う。
沈黙、その間にも明らかな浅い呼吸が部屋の温度を徐々に上げていった。秒針の音がメトロノームのように耳につく。
「ところで」静寂の殻を破って思い出したように口を開いた獄寺は立ち上がり、綱吉の横に腰を下ろした。スプリングが男を迎え入れて鳴く。「耳やっぱり似合いますね」
何を言っているのだろうと、木の実の様に両目をまるく開いた綱吉を男は好奇に満ちた笑みで以って数秒見つめそしておもむろに腰を屈めた。「あ」反応の遅れた少年が声を上げた頃には獄寺の唇は淡く色づく愛らしい綱吉の片耳を食んでいた。
それもふわふわの柔らかな毛に包まれた長く垂れる獣の耳を。


*****

4.
上がる声を愉しんでいた。獄寺はそうやって綱吉の反応に目を細めて薄く笑う、必死に淫らさを隠すその姿を。
「…やっ…め、…っ…、…」
搦め捕られた手では抵抗も出来ず。いつかこのベッドが綱吉にそうした様に男もまた少年の自由を奪った。細い指と指の間にふしくれだった異質の長い指が押し入り絡みつく。「……んくっ…ふ」散々耳を甘噛みし、なお満遍なく丁寧に舌で舐め濡らして獄寺はそのまま手を用いずに綱吉の服を剥ぎだした。歯でボタンを次々と器用に外し鼻先でそれを押しやり脱がせてゆく。同時に肌を唇や舌が這い綱吉の薄く柔らかな肢体に幾つもの痕を残していった。首筋も鎖骨も腋の下も肋骨も脇腹も獄寺の口唇は執拗な程味わい尽くして堪能する。「ふっ、あ」乳頭を歯の先で刺激され閉じた双眸では震える睫毛が濡れそぼつ、獄寺はその場所を浅く噛みながら舌先でぐりぐりと穿つように尖端を責め限界まで乳首をしこらせてから乳輪ごと口に含み音が立つ程に強く吸った。皮膚の弱い綱吉の胸はいとも容易く鴇色に染まる。
「そろそろ何かと限界ですか」
無防備に主張した綱吉の小さな乳首を舌で潰し転がしながら獄寺は口の端を上げる。「それ、」いやらしく粘った音が漏れる様に吸っては舐め回し合間合間に男は言葉を紡いだ。「耳が、生えてきたらもう獣化スタートなんです」内面までもと。好色に浸る声音は確信を以って宣う鬱血してまるで膨らみを得ている風にも見える胸元から唇を離し、獄寺は繋いだ綱吉の指先に軽く口付けを落とした。「10代目…知ってました、」牡の性が色濃く滲み烟った眼が羞恥に染まる躰を見据え。
「ウサギは、動物界でも屈指の性欲を誇る生き物なんですよ」
低く。吹き込まれたのは喉の奥に笑いを抑えた掠れ声。

遠く揺れた水面があった。



*****


奔流に呑まれた様だと。思わず目を疑う程動物としての目覚ましき生殖本能の開花解放を迎え否応無しに発情、などと生温いものではなく発狂すら疑う媚態ではない欠食児童態。至極半端なアイデンティティを残し墜落した、人間らしさの外殻、その何と言うアンバランスさ。
「10代目、」
「あのっあの、ごめんね、ごめごくでらくんこんな、の、おれじゃないっ、よ、…、っ、れじゃ…な、…、……。………」
息を切らして一心に尽くすその様子に。
獄寺は天井を仰いだ右膝は今、10代目のもの。頬を羞恥色に染め上げて綱吉は獄寺のペニスにしゃぶりついていた、下半身はあられもなく男の片膝を跨いで尻穴や陰嚢を擦り付け何度も何度も反復を。繰り返す動作、振られる腰と双丘。蠱惑の残像が眼球を呑むふしだらに。
「ちがっちがうちがうから、」
「何が違うんですか」
「ほれひゃ、ら、ひ、…、」
「……そうですか」
「む、はふ、ん、んんっ…」
「幸せそうですね」
溢れる唾液もそのまま。肉身を慈しみ、頬張り齧りついて陰毛すらをも一緒くたに口腔へ含み溶けかけのアイスキャンデーか何かと勘違っているのではないだろうかと獄寺の怪訝を誘う程夾雑の一切も無く愛撫する綱吉なら、残骸の羞恥はその高尚さ故に制裁として降り懸かるのであろう朧な葛藤も伺える。
無垢で頭のよわい甘やかな子供が最も欲しがった玩具を手にした時にも似ていた、何より強欲な好意。禁的でとめどない無数と自由の氾濫その罪悪あきらかで不滅の目映さ。
純潔の体現あまりの匂やかさに獄寺は眩暈を覚える。目を覆いたくなる程に神々しくも不徳、眩しき罪がそこに在る。両目が燬き爛れてしまいそうだった。

湿り気を帯びたシーツに、ふと嫉妬を買っているだろうかと獄寺は思う。このベッドと綱吉は甚く仲がよかった、沸々と涌く優越が横溢しそうだった。この人を乱すのは自分だけでいい、貴方が墜ちる、なら。
「オレもいっていいですか」
旁に。


〔次〕

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!