もう二度と、離れる道などはじめから無かったかの様に抱きしめあって、屋上。落日に照らされながら、互いにこのままひとつになれてしまえればと希んだ。放課後、彼等二人しかいないこの場所で。誓う声なら今何よりも確かな。
忘却のそらに、解放、
そして夕焼けが……融けて滲んだ残照の日。
Vermillion
見渡す限りの赤い空。
屋上から見上げた天は遥か遠く広がって、何処へでも行けそうな気がして少し悲しくなった。
頬をすり寄せて、ぎゅっと握った彼のシャツ。男の匂いに包まれてざわつく心が軋んだ。熱く痛む目をその胸にこすりつけどうか、どうか涙が零れぬように。獄寺もまた抱くその腕をつよめる、愛しさのすべてをこめて。
ツナの震える背がいたいけで狂おしく全身全霊をただ、揺らぐ小さな熱に捧げ。
時など、止まってしまえばいい。どうかこのそらよその色を変えないで。急激に移ろう朱は切な過ぎる、せめてひととき今をとどめては呉れないか。
「綺麗ですよ、」
見てください。男が示すその光景、紅の時。翳に落ち照らされ揺らぐ遠い街並み。失われた色彩が幻想的で、まるで現實から乖離した景色のそれら。
「あかいね。」
「はい。……あなたも、」
ツナの頬へと手を添えて。赤く色付き熟れた顔容、斜陽の所為か、朔風ゆえか若しくは。
「綺麗です。」
細められる灰緑。虹彩の淵にとらわれる、思考も感情も余すこと無く奪う翠瀛。
「あなたが、……なによりも。」
薄く触れあった唇。体温を確かめる様に淡く口付けて、けれど離れてもまだ互いの呼吸も鼓動も感じる距離のまま二人。
「愛しくて、愛しくて……仕方無い。」
熱い息と生まれる愛の言葉それは。
「愛してます。」
「……うん。」
「……愛してます…。」
重ねた命。
夕陽に融け合うひとつの影が。
誓う愛だけ今何よりも真實。
―忘却のそらに、解放、そして夕焼けが……融けて滲んだ残照の日。
FIN.
20070126
《Vermillion/commemorative100000》
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