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 放課後は時々誘われて相崎の家に寄る。
 他愛もない話をしたり、課題をしたり、テストの前には勉強を教えてもらったり、たいていそんな風に過ごすことが多い。
 相崎は家につくと、習慣になっているのかのように真っ先にリビングに置いてあるパソコンの電源を入れる。
 その日も例にもれずそうで、パソコンが起動する低いうなるような音を背中で聞きながら、俺はソファに腰を下ろそうとして、ふとその前のテーブルに小さなアルバムが置いてあるのに気づいた。
 興味が沸いて、まだパソコンの前にいる相崎に見てもいいかと尋ねるといいと言われたので、遠慮なくページを捲る。すると、1ページ目にはなにやら宴会のように並べられた料理の前でさまざまな年代の人が映っている写真が貼ってあった。
 相崎もそこに映っていて、ちょっと改まった格好をした写真の中の相崎は、中学生くらいの可愛い女の子と着物を着た綺麗な女の人の間に座っていた。視線はカメラの方には向いていないが少し笑っている。落ち着いた色のジャケットを着ている相崎はいつもより格段に大人っぽく見えて、写真映りもいいんだと思わず見蕩れてしまう。
「これいつの写真?」
「甥の誕生日のやつだから…先月だな」
「誕生日?親戚で集まるんだ」
 俺のうちは親戚一同で集まるなんて機会は、誰かの結婚式か法事かそんな時くらいだ。
「まあな。初孫だし、うちは古い家だから」
「これ、相崎の家?」
 写真に写っているのは続き間の相当広い和室のようで、ページをさらに捲ると他に庭らしいところで映した写真もあった。
 そこには錦鯉が泳いでそうな池と灯篭があり、つきものの獅子脅しもないかと探したが、それはないようだ。
 以前、裕介が相崎の家は豪邸だと言っていたが、その写真に映っていたのはそう呼ぶのにふさわしい作りのように思えた。
「いや、親父の知り合いの店」
 そう答える相崎の声が近くてびっくりした。
 いつの間にか相崎は俺のすぐ後ろに来ていて、ソファの背に手をついてアルバムを覗くように屈みこんでいる。
「この人、誰?」
 その距離にうろたえながら、一番はじめにみた写真に戻って尋ねる。
「義理の姉貴。一番上の兄貴の嫁さん」
「こっちは?」
「従姉妹」
 相崎の義理のお姉さんもその従姉妹の女の子も、顔は小さくしか映っていないが、美人に見える。他にも女の人は何人か映っていてそれを見る限りみんな美人だ。
 とはいっても、親族一同全員が相崎のような美形というわけでもなく、だけどみんな品の良さそうな人たちだった。
 ふと視線を感じて顔をあげるとどこか面白くなさそうな顔をして相崎が俺をみていた。
「何?」
「お前、結構女好きだよな」
「何言ってんだよ、彼女いたことないって言ったじゃん」
 とんでもない言いがかりに慌てて否定する。
 女の人は嫌いじゃないが、むしろ緊張するから苦手なのに。
「そうじゃなくてベースがな。こういう写真で真っ先に女に目が行くのはそういうことだ」
 実を言えば真っ先に目がいったのは相崎にだったけど、なんだか照れくさくて言わずにおくことにした。
 つまらないことを言い出す相崎を無視するようにページを捲ると、一枚だけ背景が違ってその誕生日の時にとったものではなさそうな写真が一枚あった。
 ショートカットの凛とした中学生くらいの綺麗な女の子。
 不機嫌そうな顔でカメラをみるその子の瞳はとても綺麗で思わず目が引き寄せられる。
 誰だろう。
 でも、このタイミングで訊くのはものすごく決まりが悪い。
「どうした。そういうのがタイプなのか?」
 あまりに長く眺めていたからか相崎が聞いてきた。正直に言えば、まさしくその通りかもしれなくて、図星をつかれてうろたえる。
「えっと…その…」
 肯定するわけもいかずつい言いよどむと、相崎に間近で微笑まれて心臓が鳴った。相崎の笑顔は時々心臓に悪い。
「よかったな。市川」
「何が」
 たぶん赤くなっている顔を隠すために写真に目を戻す。
「好みの奴とつきあえて」
 その言葉の意味を理解して、驚いて相崎と写真の美少女を見比べる。似てる。確かに。面影はある。
 相崎の顔と写真を幾度も見比べていると、何度目かでこめかみにキスされた。
 その感触に顔が熱くなる。
 なんて言ったらいいのか迷ったあげく、おかげさまでというと、その言い方がおかしかったのか相崎が噴出した。

おわり
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