しとしとと
糸のような小雨が舞い落ちる
真夏の 空
珍しく アイツが
歩いてなんか帰ろうとするから
気まぐれな空は驚いて
外は雨なのだ
「……ほら見ろ。雨じゃねーか。」
下駄箱で、履き潰した上履きからスニーカーに履き変える。
トントンと靴の爪先で床を叩き、しっかりと友人から借り受けた黒傘を広げて濡れた地面へ踏み出す。
アスファルトではなく、雨を吸い込んだ砂利混じりの土を踏みしめると、サクサクと音がした。
HR終了から少しタイミングを外した正門前は割と閑散としている。
夏休み前のこの数日間は、どこか皆浮き足立っていて。早々に学校の敷地から抜け出し遊びに出る者が殆どだ。
…うまく紛れたなと
自分でも思う。
そして視線をあげたその先
少し離れた建物の陰、こちらから見れば死角になる場所に
少し気だるげなアイツが立っていた。
しとしとと降り続く雨に
……黙って濡れながら。
「遅かったな」
「…なっ…海馬!テメー何濡れてんだよ!」
驚きと焦燥感とで息を詰めたまま駆け寄る僅か数歩。
奴の濡れたシャツから透ける肌が確認できる位置まで近づくと、オレはその細い腕を引き傾く身体を傘の下へと収めた。