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耽溺の




『浴婦』、『傘をもつ女』、『サントロペ湾』……

新印象派を経てフォービズムへとくわわった。
Manguin,HenriCharles...
1874〜1950.フランスの画家。


マンギャンはサントロペを好んでいたと聞く。壮年以降しばしば滞在していたそうだ、あの青い海を気に入ってでもいたのだろうか。


モローに師事していた彼もまた師とおなじく、やはり生きた色彩を愛した。

[Moreau,LouisGabriel]言わずと知れたバルビゾン派の先駆けたる人物。
革命時代から帝政時代にかけてその正確な観察眼と新鮮な色使いにより彼は名声を博した。

風景画を好んで描いていたモローに対し、むしろマンギャンは人物画に要点をおいていた。
それはそのまま彼の内面のスタンスを顕著にうつしていたように思う。
そして、師と同じく活力ある色を好いていたとはいってもその趣向はまるで違っているように感じとれた。

モローならば風景に息吹をみいだしていたのだと思う。生き生きとした躍動する自然を愛していたが為の表現手段としての生命力ある色彩。自分の好むものを他人にも見せようとしたのではないだろうか、などと思った。

だがマンギャンのそれは表現ではなく創造のように感じた、似て非なるそれは内面から噴き出すセクシュアリティーをはらむ欲求。
確かに欲望心の無い絵描きなどはいないだろう、誰しも、例えばモローであってもそこには表現したいという欲がある。それであってはじめて人は何らかのものを生み出すことができるのだ。それは絵描きに限らず誰にでもある感情であり、人間が生きる糧となり原動力でもある。


なれど、そこに性欲が伴うかはひとそれぞれだ、
マンギャンの作品にある『激しく鮮やかな』色彩はそのまま彼の願望があらわれている様だ、
それは酷く受動的で、且つ確固たる本能。


激情迸る、自身をあらわす色を。のぞむままキャンバスに叩きつけてゆく。自分を満たす為に、その白き画布へと。

キャンバスは抗うすべなどはじめから持たず、ただ為されるがままに絵筆を受け入れ。
塗り込められてゆく、男の情熱を甘受する…。


それはどこかセックスに似ていると思った。




::::::


…………幼い頃に、一度パリに連れて行かれたことがあった、絵をみたいと言ったアネキのおかげで美術館巡りをするハメになってそのときにオレはこの画家のことを知った。


片肘をつきながら分厚い画集のページをめくってゆく。
からんとした人けのない図書室はなかなかに居心地が良かった。いや、正確には自分のほかに、10代目がひとり。それが尚更にここちよい。

明日の授業で使う資料を律義にも探すと言った10代目についてった、案外めぼしい資料はさっさと集まり、むしろ集まりすぎた資料をいま10代目は吟味し取捨選択を重ねている。

やることもなくテキトーに目を流していた本棚で、知っている画家の名前が書かれた背表紙が目に入り、今に至る。


ペラペラとめくってゆく、と。意識につよく訴えかける絵を目にしてオレの手は止まった。

それは、オレがはじめて目にしたマンギャンの絵画。
『サントロペ湾』。


この絵がひどく印象に残り、オレはこの画家に興味を持った。

その後ほかの作品も調べたりしたが、どうやらこの画家の代表作には人物画が多いということが分かっただけでこの絵を目にしたときほどの感銘はどれにも覚えることはなかった。

だが、様々な作品をみることによってこの画家の嗜好を知っていくと更に、この絵への興味は深まった。特殊であったのだ、何かが。……南フランス、サントロペの海。



「獄寺君、難しい顔してどうしたの?」

必死で資料を選りすぐっていた10代目が手を止めてオレの名を呼んだ。


その瞬間、

(あぁ……、)

唐突に理解できた気がした。あののまれそうな青、みるものを溺れさせるあお。
海を描いた絵ですらエロティシズムを感じる、あれは。

愛していたのだ、
マンギャンはあの海に、恋い焦がれていた、奪われていた、心を。あますことなく、

あの絵がこんなにも人をひきつけるものとなったのは、そこに恋しさがあったからだ、こんなにも胸を締め付ける狂おしいまでの慕情。



オレを溺れさせる、
       あなたという、
              …ーーー青。




       close.




20060519〜20060524










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