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 いやだとはいえない。

 嫌がることよりも、求めるすべを覚えてしまったから。
 虚ろな躰が、欲してしまうから。


 さらに我が侭に。熱を、もっと、…なかに。


 そうして俺は手を伸ばす。
 渇望するそれを、
 飲み干さんとするばかりに。






下弦の月










 ひらめく指先は月夜に弄ぶ。
 獄寺の節くれた長い指が撫で蠢くたびに、淫靡な気配を募らせるのはどちらか。
 頑是無くありつつその表情ははしたないほどにあられもなく。決して暴かれることのないような無垢すぎるその少年の清純を汚しているという実感に獄寺は背徳的な快感を禁じ得ずにはいられない。それほどまでに、いとけないツナの醸し出す被虐的でありつつも甘芳な色香は卑しい牡の本能の扉を妄りなまでに叩いては、奥に潜む劣情的肉欲を必要以上に喚起させるばかりのものであった。

「ごく…で、らく、んもぉ、それ、そこ、ッそこォ、っ……」

 稚拙な単語ばかりを何とか紡いで訴えるツナの精神はまるで退行してしまったかのように。喘ぐような途切れ途切れの息をしつつ発する鼻にかかった甘い声音が一層の嗜虐心とそれに準ずる欲情を促し掻き立てるということは言うまでもない。

「そんなに啼いて煽んないで下さいよ。……しっかしやぁらしいっスね10代目は恥ずかしいとかないんスか、もうこんなにだらだらと汁垂らしまくってそんなに気持ちイイですか? ぐちょぐちょとまあオレの手もこんなに汚してくれて」

 ツナの羞恥心を揺さぶって更なる恥虐を謀る獄寺の犲狼の如き貪欲さに、怖気のような身震いをするも。しかし淫楽に懐柔した躰は容易く感情を裏切る。未だ未成熟な肉体はその見目形の幼さとはされど裏腹に、享悦に浸り猥らで浅はかな反応を示すのだ。震える身体は嫌悪感などではなくあまりの快楽に身悶えしているのだと、そう目の前の男に伝えている。逸楽に溺れた情緒では否定することすらできずに主張してしまうのだ。もっと一層の歓喜と陶酔を期待している淫猥な自分自身を。

「なんつーかエロいっスよねえ、そおゆー眼で見上げんのは学習でもしてんスか、わざと?」

 揶揄する言葉さえ総てが性感帯のように躯中に響いて責め立てる。獄寺によって放たれるそれら耳朶を叩く単語のひとつひとつが、ツナにはまるで媚薬に感じられた。
 意識を奪われていくこの感覚が堪らなく心地よいと、戦慄く濡れた滑肌が主張する、

「わざ…っじゃなぃー…あ、あ、んん…ご、くで、ッあくぅ、んうぅッ」

 甘すぎる愉楽は麻薬か毒か。逸るこの身を助長する欲しがりなこころが止められないツナの潤んだ飴色の双眸は今、快楽に煙って。 
 危な絵の女のように妖し気な視線を流す瞳は、無邪気さ故の罪といえよう。その瞳の持ち主に自覚など無い。それがどれほどの扇情的な色合いをして艶めかしさをたたえているか。
 自らの主君という本来平伏すべき相手に抱くとは思えないようなあまりにも不道徳すぎる感情をついに露わにさせられたのはこの瞳に魅せられたからかもしれない。不安定で揺るぎ易く、なによりあやうげなこの眸が、躬の奥底から深淵に澱む官能を呼び醒ます。

「はあ、ん。んぅ…ッれ、ないの、獄寺くっ…ぅんッ」
「何スか?」
「…いれっ……ぃの、挿れな、ぁ…い、の?」
「呂律回ってないっスよ? そんなに舌っ怠ィ話し方だったっスか10代目は」
「……ぃ…ん、らもん…め、…らよぉ…、……ら、っくぅ、ん、あ、あッ…」
「駄目っスねぇ。困ったちゃんな10代目もイイっスけど。…で? どうしたいんスか、何が欲しいんです」
「れ、てえ…ッ、獄寺君、っの……っれぇ、て……」
「オレの何スか、なにをどこに?」
「…っごく、で…っらくぅ…ん、の、おちんち、ん…っれの、俺のぉ、おしり…ッ…にっ…れ、て、…挿れてぇ、よお……ッ」
「お。良い子っスね、よく出来ました。…じゃあ、…イイコな10代目には、ご褒美をあげましょうか」
「んン、…ぅんは、はやっくぅなか、な…っかぁ……」
「わかりましたから、……ほら、コレが欲しかったんスよね? くれてやりますから、力抜いて下さい。…っつか、まあもう力めっつっても無理そうなかんじみたいだから平気っスね」

 白磁の柔腿を無骨で大きな手が掴む。
 獄寺によって左右に大きく割り開かれたツナの華奢な両脚のあいだに密やかに息づく秘められた陰蕾を。
 無慈悲なまでに強引に、乱暴な動作で鮮やかにも躊躇い無く散らす狼藉、野蛮な。

「ッひ、あアぁあぅんンンんー……!」

 衝撃は媚肉を割り裂き体内を犯すそれの存在が齎す苦痛とそれ以上の極歓。
 異質の質量重さ熱、さまざまな感覚感情が交錯するそこに見えるのは。

「ごくでらく、ぅんンン、っく…ぇあく、あ、アあ、ンんンッッッ……っ!」

「初っ端から毎度イっちまうっつーのは、……っまあ10代目の可愛いとこだよな」

 激しい締め付けに息を詰めながらも口元には笑みを浮かべる獄寺。

「こっちも挿れ甲斐があるっつーか。…じゃあ、そろそろ動きますよ……って、あーあ聞いてねぇな」

 間近に零れる言葉さえツナにはもう拾うすべなどない。法悦の極まる海のなかでは、溺れる肢体が薄らぐ意識と共に沈没してゆくこの状況に呼吸すらままならず。
 激しく揺さぶられて筋肉のついた男の逞しい腰を容赦無く叩きつけられて、淫蕩に灼けるなかを更に深く深く抉られ犯される。
 卑猥に濡れそぼって締まる粘膜を執拗に本能のまま行き来する音が二人の接合部からひっきりなしに溢れて。

 堪らない感慨、虚像すらみえない世界。

 滲む視界で、ただひとり網膜に焼き付けたいそのひとにツナは必死で焦点を合わす。

「…くでら、くぅ…ぁっん、っ…ナカっ…ぁおなかぁー…あ、…つい、ぁ…たかぃ、よおォ…っッ」
「! ッー……直に腰にクるよーな事いってくれちゃって」
「ひああァッなか、お、っき…ィのォお、な…、っれェ」


 ツナの中で更にその嵩を増した獄寺が焼けた赤黒い剛塊でなお力強く内部を穿つ。
 直に前立腺が押し上げられるこれ以上無い至高の感覚でその都度意識が飛びそうになるのをツナは精一杯堪える。

 まだこの快感を共にしていたくて。

 悦楽だけを追い求めているのではない、熱が冷めてしまった後の虚無感がこわいのだ。
 同じベッドで寝て、どんなに傍にいてふたり身を寄せ合っていても、ひとつだった筈のからだがはぐれてしまった孤独感は拭えない、愛する人とこんなに近くなれる方法を知ってしまった今の自分では。


「は…、10代目、夜はまだ長いっスよ?」


 生暖かい感触を瞼を上げると、獄寺がそこに口唇を押し当てていた。どうやらいつのまにか泣いてしまっていたらしいとツナは今更に気がつく。熱い獄寺の舌がツナの涙を舐め取った。

「泣くにはまだはやいっスよ。勿論イった後のことを考えるのも」


 獄寺には自分の考えていることがわかってしまったようだ。こんな不安症すぎる自分も、何に怯えるのかもすべて。


「大丈夫」


 獄寺が熱く灼けたそれでツナの酷く弱い部分を一際強く突き抜いた。あられもなく甲高い嬌声が室内に響く。ベッドのスプリングが軋む音に混じって、結合部から漏れる濡れた淫猥な水音も、ふたりの交じり合う吐息も獄寺が流す汗もぬくもりも総てが心地よかった。あまりの幸福感に恐怖心すら覚えた、どうしてだか不安になってまた涙が。

「大丈夫っスよ。10代目、オレはそんな簡単に果てるようなヤツじゃない」

 口許に悪戯めいた笑みをのせ、言い切った獄寺の言葉が、あまりにも核心をついたものだったから。
 ツナは思わず目を見開いて獄寺を見詰めた。互いの視線が絡み合う。無言のまま唇をあわせ、はじめはそれぞれの形をたしかめあうように。しかしそれはまもなく貪るようなものへと変わった。獄寺の多分に唾液を纏ったほろ苦い舌がツナの歯列をなぞりこじ開け、そのままその小さな歯の裏側一本一本までもを舌先で撫でていく。更に口蓋を舐めまわして内頬すらも擽って。
 脊髄を這い上がる例えようのない快感にツナは悸いた。
 その間も弛むことなく打ち付けられる男の腰。容赦無くひらかれたツナの秘所はもはやぐずぐずに蕩かされきって、体内から溢れ漏出たものと、獄寺の似精と自身の零した先走りとがベッドシーツに大きな染みを作っていた。

 息継ぎすらも儘ならない状況はツナに白くぼやけた世界を見せ続け。

 獄寺の巧みな舌がツナのそれをとらえ蹂躙している。絡まり交じり合う唾液がツナの細い頤を伝った。


 白濁の視界のなかで見えるただひとりのひと。



(…、…そ、か……)



 ゆきついたひとつのこたえに、ツナは安堵する。
 自分ですらわからなかった不安へのこたえ。貴方がこうして俺に教えてくれたこたえ。

 うしなうのが、こわかったのだ。貴方という存在を。
 唯一無二のよろこびを、
 このしあわせが失くなるのを怖れていた、根拠が明確にあるわけではないのにただ闇雲に、けれどいつか訪れる様なその時を思って、独り不安に駈られていた、けれど。


「10代目の惚れた男は、そんなにヤワなヤローですか?」


 獄寺が、これ以上無いであろう所まで張り詰めきった怒張でツナの最奥を捧げられる限りの全霊で穿つ。
 刹那どうしようもない快感に襲われて、堪らずにツナは熱をはき出した。
 若干遅れ気味に獄寺も自身を解放する。ツナのなかに放たれた灼熱に滾るようなその迸りに、ツナは更なる快楽を覚えた。
 腹を充たすそれがたまらなく愛おしい。

 だが、かなりの量を放出したにも関わらず、獄寺のそれは未だ萎えておらず、ある程度の硬度と大きさを保ったままでツナのなかに屹立していた。

「え、あの獄寺く…」
「イっちまったらそれが最後すぐ終わりだなんて誰が決めたんスか? 10代目」
「…ぁ……」
「そこら辺はオレの溢れんばかりの愛と若さでどうとでもなるんスよ、10代目が望んでくれさえすれば、」

「ッひぁっ…!」

 ぐん、と更に質量を増す獄寺。急な圧迫感にツナは吃驚して息を詰める。


「オレは何度だって復活しますよ?」


 想像だけの怪物のような不安や恐怖など、所詮は杞憂に過ぎないのだと教えてくれた貴方という存在。
 これから第何ラウンドまでも続きそうな二人の長い夜を、カーテンの隙間から覗いた下弦の月がひっそりと見守っていた。






        FIN.




     20060509












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