オレだけのセンセイ。
毎日、あのひとに会う為にオレは学校へ行く。
物静かで…澄んだ声、いつでも親身になって話を聞いてくれる優しいひと。あのひとが笑うと日だまりのなかにいるみたいに暖かだった。どんな時も、こころまで包んでくれるやさしい光みたいに……
あのひとの傍にいるときだけオレは安らぎを得られたんだ。
桜舞う季節、
高二の春、…恋をしていた。
*****
「次の職員会で提示する文書……あ、まだひとつ資料足んなかった、」
他校への出張から戻ってきた沢田は両手に抱えた分厚い数冊の書類ファイルのなかを除き見ながら溜め息をひとつ吐いた。この職についてまだ日の浅い彼には慣れないことも多々あり、その上要領というものが元来余りよいほうではなかった為に人一倍骨をおる機会も多かったが、それでも彼にとってこの仕事は長年の夢であったため嫌気がさしたことなどは一度として無かった。
それに最近沢田には少し嬉しいことがあったのだ。小柄でお世話にも恰幅が良いとはいえない体格と幼い顔立ち故、常に年下からなめられ易い彼はこの男子校へ就任してもやはりそういった面で生徒達に対する威厳といったものが皆無で、よくいえば頗るフレンドリーに、悪くいえばからかう風に接しいじられる…つまりは生徒連中のいいオモチャとなっており、沢田自身もまたそんなことは小中学生の頃から慣れっこであった所為である種のマスコット的立場を余り気にすることも無く甘受していたわけなのだが年度がかわって今年の春、ひとりの男子生徒がこの学校に転入してきてからはその状況が少し変わった。
獄寺隼人。
そう彼がいま沢田にとっての『少し嬉しいこと』、である。
「あ! 沢田センセイッ、おはよーございます! …っと、どこ行ってたんスか?」
「獄寺くんっ…あれ、もしかして待ってたの…? 保健室はべつに勝手に入ってもよかったのに…あ、それとも内服薬系がほしいの…? ごめんね、鍵ないと取れないよね、」
「え…と、や、別にそーゆーんじゃねえんス…け、ど」
「?」
「まーまー、あの取り敢えず入りましょ保健室! あ、書類(ソレ)重いんじゃないっスかオレ持ちますよ、」
「えぇ? いいよすぐそこだし」
「いいえ持たせて下さいッ…!」
じゃあ半分こ、と唇をつんと尖らせながらも優しい微笑で見上げた沢田を、獄寺はついほうけたように見詰めてしまった。いや、仕方ないだろうと自分に言い訳をする、しかたない。あんな顔でしかも上目でこのひとに見られたりなんかしたら。
「獄寺くん…? おれ顔に何かついてる、」
「ッ……! や、いえ…ッ、なんも!」
「……うん?」
「ホント何でもないっスから! スイマセン、」
「へんな獄寺くん」
少しだけ腑に落ちない様ではあったが沢田は引き下がった。そして視線を逸らす獄寺。…ああ、変だ。すんげえ変だ、だから。
……この気持ちを、伝えてはならないのだ。
つめたく光を反射するワックスの効いた床へと視線をおとして。今一度決意を固めた少年の肩をひとひら、風にのって舞い流る桜の花弁が掠めた。
to be continued...?
いつか『教えて下さいよセンセイ』というセリフを獄寺に言わせてみるのが夢です
20061226再編集
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