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きみ以外、存命の手段が
無くても…いい。






廃盤エロティックグレー













 やっと辿り着いた扉の前、乱れた呼吸をととのえることもせずツナはインターフォンを鳴らした、明かりが洩れている窓に部屋主の在宅を思い安堵する。 暫し待つと室内から足音が近づいてきた、鍵を解く音と共にドアがひらかれる。


「……! 10代目? どうしたんスか、」


 獄寺の顔をみて躰中から力が抜けた、ツナはそのまま玄関先にぺたりとへたり込む。

「ッ何かあったんスか、どう…、」

 ふるふると頸を振って、ツナは大丈夫とだけ呟いた。





    ******


「吃驚しましたよ、いきなりしゃがみ込んじまうし10代目」


 マグカップを二つ手に持って獄寺がリビングに入ってきた。ツナはソファに腰掛けたままでテーブル上に置かれたマグカップのひとつに手を伸ばす、ツナ寄りに置かれた方のそれにはココアが入っていた。もう一方にはブラックコーヒーが。
 勿論何の迷いも無くココアを選んだ。どうぞ、と獄寺はそれを勧める。口元にカップを近づければ甘くふんわりといれたてのココアが薫った。ひとくちこくりと嚥下する、思っていたよりは熱かったが何とか火傷には至らなかった。すこし濃いかとも思ったが美味しいことには変わらない、ほっと心身ともに安らぐ。

「……どうスか、味」

 何故かツナがカップを手に取ってから飲み込むまでの一連を黙って観察するかの様に見詰めていた獄寺が静かに口をひらいた。どことない違和感を感じながらもツナは普通に感想をくちにする。

「え…別に美味しかったよ、ちょっと甘すぎる気もしたけど」
オレ甘いのすきだし。

 そう言って笑うツナ。
 獄寺はそっスか、と微笑んで自身はブラックコーヒーに口をつけた。

 疲れたからだろうか、何だか先程からツナは堪らない眠気に襲われていた。安心したからかもしれない、うつらうつらと舟を漕いでははっと覚醒するといったことをもう何度も繰り返していた。

「眠いなら寝てていいっスよ、ベッド位いくらでも貸しますから」

 獄寺の甘い言葉に一層眠気を抑えられなくなったツナは素直に好意を受け取ることにする。

「ごめん…ちょっと、だけ……」

 ベッドに向かおうと立ち上がったツナの視界がぐらりと揺れた。脚に力が入らずにくずおれかけた躰を獄寺が支える。

「ぁ…れ、なん……」

口を動かすのすら億劫だ、何だか通常の眠気とは違うことに気がつく。

「…睡眠補助剤も健康体の人間が服用すれば結構効くもんスからね…」

 どこか遠くから聞こえたような声に、ふとさっきのドラッグストアでも今日ドリエル特売してたな、なんてどうでもいいことが脳裏に浮かんだ。



 何だか冷たいものが腕に流れ込んできたように感じてツナは意識を徐々に浮上させてゆく。ゆっくりと瞼を上げれば見慣れた室内が目に入った。獄寺の部屋の寝室、自分はベッドの上に居た。
 左腕に何やら違和感を感じ視線を遣るとそこには獄寺が居る、どういう訳かツナの腕を掴んでいた。そして掴まれた腕の付け根部分は何故か紐が括り付けられ圧迫されている。

「あ、おはようございます」

 言いながら獄寺はツナの腕の紐を解いていく、彼の様子に変わったところは見られなかったが何をしていたのだろうか。

「…なにしてたの……?」

 ぼんやりと訊ねるツナ、獄寺はああと頷きながら至極愉しげな面持ちでベッドヘッド部から何か手に取ってみせた。

「コレっスよ、」

「…え……?」

 獄寺が長い指先に挟んでちらつかせたもの、それは小型の注射器だった。無機質な光を放つそれにツナは言葉を失う。

「痛くは無かったっスよね、10代目寝てたんですごいやりやすかったス」

「……な、に…言…、」

「軽いやつなんで心配しなくても平気っス、副作用があっても頭痛くらいのっスから」

 自分はクスリを打たれたらしい、と。いよいよ冗談ではないと気付いてツナは青くなった。心臓は早鐘を鳴らしている、それすらも薬の作用に因るものかもしれないと思いツナは恐怖した。

「ちょ、こわいよ何てことすんの獄で、」
「だからそんな大したモンじゃないっつってんじゃないスか、でもああ…さっきのココア、酒も少し入ってたんでまだ抜けてないようなら薬の回りは早いかもしんないっスけど」

 先程のココアの甘味の強さは味を誤魔化す為の手段だったのかと、ツナは今更ながらに飲んでしまったことを激しく後悔した。

「子供騙しな一時的作用しかない軽いクスリです、しかも効果も短時間しか持続しない。時間勿体無いっスからはやくやりましょっか」

「な……やだ、ホントそんなことしてるような、今、」

 獄寺の手をツナは拒んだ、すると意外にもあっさりと獄寺は身を引く。それがかえって妙だった、恐る恐る表情を伺うとさも残念そうに溜め息を吐く獄寺。

「そ、っスか。…10代目がそう言うなら仕方無いっスね。わかりました、」

 なんだか嫌な予感がする。ツナは不穏な気配を察した、そもそも自分は何かとても重大なことを忘れてはいなかったか。

 獄寺がベッドからおりた際の小さな揺れにツナの躰はビクリとおかしなほど過敏に反応した。その些細な振動に何故か下腹部を中心として全身へとゆるい波が走る。それに身じろぐと更にまた肌が粟立った。
 何事が起きたのかと目を見開くツナに獄寺はさして面白くもなさそうな様子で素っ気無く言って聞かせる。

「…ああ感覚が鋭敏になってるんですね当然じゃないっスかクスリ打たれてんスから」

「あ…、」

「何とかしてやりたいんですよ? オレだって。けど10代目にスルなって命令されてちゃ手も足もでないっスね残念至極遺憾に思います」

「めいれ…なんて…、…!」

 ツナの言葉を無視して寝室から出て行こうとする獄寺。こんな状態で放置されるのが怖くてツナは思わず呼び止めた。

「…なんスか?」

 呼び止めたはいいが続く言葉は考えておらずツナは押し黙る。そうしている間にも躰は待った無しに薬によっておかされてゆく。意識の外でそれは止めど無く熱を生み出していった。

「あ…の…、…」

 ゆっくりとこちらに近づいてくる獄寺。ベッドの脇まで来ると無表情に立ったままツナを見下ろす、視線に気圧された。けれど動悸は激しさを増す一方でツナはシーツをぎゅっと握る。

「……じゃあ、自分で何とかして効果が切れるの待つっつーのはどうですか」

 平淡に抑揚無く告げられた言葉の意味をツナはいまいち把握することができなかった。頸をかしげて意味を考える。
 獄寺は改めてゆっくりとした口調で言い直した、若干口端のみをもちあげて。

「ですから、自分でヌいたらいいんじゃないっスか。オレがちゃんと見ててやりますから」

「…は……?」

 予想だにしていなかった獄寺のひと言にツナは言葉を失う。

「だってそのままじゃつらいっスよね10代目」

 面差しにこそ余り変化は見られなかったが、今の獄寺は純粋にこの状況を愉しんでいる風だった、見下ろす視線に浮かぶ色がそれを物語る。

「…っ……」

 シーツに脚が擦れるだけでもざわざわと脊髄を這い上がるものがあった。事実揶揄する言葉通りにツナの性器なら顕著に反応を見せている、だがそこを人前でさわるなどツナには出来る由も無い実際、自慰の経験すら淡いというのに。

「…で、きないよ……そ、な…の」

 なんとか絞り出した声が震えた。目線は真っ白なシーツを固く握った手の甲へと縫い止められ。

「人前ですんのはみっともない、てことっスか?」

 こくこくとツナは幾度もうなずく、時々さり気なく身を捩る動作が紛いようも無く体内に吹き荒れる快感を示していたのだが、それをひた隠しにしようとするツナの何と愛らしいことか。

「センズリに今改まっての恥も何も無いと思いますけど、人前だろうがそうで無かろうがどっちにしろカッコいいモンでは無いかと、」

 いきなり露骨で直截過ぎる単語を耳にしてツナはみるまに朱く頬を染め上げた、ただでさえ火照る躰に更なる炎紛が散る。

「ただ、まあどうしてもソコに触れんのがいやだっつーんなら別のトコ使ったっていいんスよ10代目は、」
あっちの感度めちゃくちゃイイっスからね、
と意味深に微笑う獄寺。

「あ、…っち…?」

「わかんねえんスか? アナルっスよ。いつもソコでヨがってんじゃないっスか」

 思わずツナは自らの耳を疑った。構わず獄寺はなおも続ける。

「それまたソソりますね、あーオレまじで見てみたくなっちまったかも。10代目が自分で自分に指とか突っ込んで感じちまってるトコ」

「そ、そんなことするわけ、」

「無いって言い切れるんスか、濡らしちゃってますよシーツ」

「ッ…ぁっ」

 ベッド上、丁度ツナの座っている部分に染みが広がっていた。それは隠しようも無くツナの零した欲蜜に因るもので、意識的に無視するようにしていたそれは随分前からトロトロと止めど無く溢れ続けていた。

「…そんなにシミつくるくらい…ヌレてるみたいっスけど」

 言いながら獄寺は身を屈めてベッドの濡れた場所を指先でなぞる、長い手指はツナの躰すれすれを至近で滑ったがその柔肌にふれることは無かった。

「ッびっしょびっしょ…、これマットレスまで染みてるかもしれませんね」

 かあぁっとツナは頸筋まで熱くなったのを感じた、その上獄寺の口にした卑猥さを含む言葉にまで過敏化した躰は著しく反応を示す。

「ほら10代目見て下さいよ、」

呼びかける声に反射的に下を向いていた目を上げてしまってツナは静止する。見せ付けるように眼前で、シーツから擦り絡め取ったツナの淫らな体液を獄寺はその指端で擦り伸ばして見せつけた。

「…すッげぇイヤラしいス、10代目」

「…っ……」

 ツナの体内を駆け上がるぞくぞくとした何か。また染みの面積が広がってしまった様に感じた。

(ぃ、…やらしぃの、はごくでら、くん…だよ…っ…!)

 俯くツナの視界がじんわりと滲む、もう既に呼吸もかなり乱れていた。思考力までもが漸う失われていく、注射を打たれてからどれくらいの時間が経過しているだろうか二十分は過ぎているように感じたがもっと経っているようにもいないようにも思えた。


「…ん、ぅ……」

 むずむずと疼く下肢、時折足先の引き攣れるような鋭い快感と連動して後孔までもがひくついた。腹の底からせり上がって来る抑制し難い逸楽にいっそのこと何もかも委ねてしまえればと思う。また躰に揺らいだ淫靡な波紋に、ツナは爪先でシーツを引っ掻いた。

「はあ……、ん、ぅく…は、…」

 キシリ、と耳に入った音にそのほうへ目線を遣ればさっきまで立ってツナを見下ろしていた獄寺は今ベッド脇のスツールに腰掛けていた。


「く、…らく…ん……」

 朧な眸で獄寺を見た、男はどうしたんですかと空々しい言葉で反す。
 躰が爍くてしょうがない、今もしふれてもらえたなら途方も無くきもちよく成れたと思うのに。


「…ど、……すれば、い…の…?」


 今、いま欲しかった。



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