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身体中が、短絡。



感じられるのは、



     きみだけで。






ラストコールで叫んでよ






 土砂降りの雨、雷鳴までもが空を戦慄かす。その荒廃の模様具合は何故か自身の内面にすら影響した、翳をおとす稲光の刹那。


 言い知れぬ焦燥感とこれは恐怖なのか、わからないまでもどうしても独りでいるのがこわかった誰かに傍に居て欲しくて、誰かだれか、
 だれ、

………。

…、

……じゃないそうじゃない、
ちがうんだ、
 傍に居て欲しい人はそんな不特定の誰かなんかじゃない。

違う。違う、
 ほんとうは一緒に居て欲しいひと、獄寺君。……獄寺君がいなかった、
 この部屋には、オレだけ独り。それがいま息を出来ない理由、呼吸の仕方忘れちゃうんだ。きみが教えてくれないとオレだめなやつだから、
……、

知ってるくせに。

 何でひとりにするの、嘘吐きだ。『誓います』って何を約束したの、
 毎日毎日なにをオレに埋め込んでるのきみはオレをどうしたいの。


「窒息死しそ……、」


 独りにはしないといつでも傍にいるときみが毎日増殖させてゆく安易な嘘とオレの中の安い自殺願望。

 それから湧き起こるばかみたいな依存癖まで、あたえてくれたんだきみが、こんなに息苦しい日を過ごさなきゃならないなら明日なんか来なきゃいいのに、そんなことを思う日々はきみがつくりだしたきみが植え付けた。オレの中を掻き乱す嵐ならどこまでも傍若無人で謀らずしも非情すぎる。


「…とりに、しないって…言ったのに、」


 止まらない、熱く頬をすべる体液にのせた恋しさはそんな可愛いらしいものじゃない。渇望しているのだ、その、存在を。

「うそ、つき…、」

 あの肌がここに無い。あの声が聞こえない。あの視線が射止めない。

「…くでらく、ん、」

 記憶の中の獄寺隼人。ゆっくりとひろい掌が抱き寄せ冷たい指先ならいまごろ衣服の中に忍び込むだろうか、そうしていつも自分はその温度差と快感に身震いをする。
 ふいに名前を呼びたくなった、
 ごくでらはやと。彼を意味するカテゴリー、範疇のそれ。

「ごくでら…くん、…ごくでらくん……、ごくでら、」

……はや、と。


 熱を欲する衝動を、押さえつける理由ならここには無かった。



 彼はどんな風な段階を追ってこのからだをいつも思うようにしていたのだろうか。
 てんでばらばら、好きなように掻き抱くこともあれば厭に念入りな愛撫に精を出す日もあったしはたまた暴力的に遂げることもあった、どんな時のが一番すきか、なんて今更よくわからなかったがいずれも気持ちよかった気もする。


 押し倒される瞬間がさりげなくすきだった。期待と、不安と。あの感覚はうまく言い表せないけれど浅ましい自分を一瞬だけ感じる、むしろそれがすこし嬉しかった、こんな瞬間獄寺君と僅かでも同じ思いを共有できているような、そんな風に思えて。


 今だって、自分はひとりで何をしようとしているのか。

 彼がいつも従順に欲望へ従ってオレを求めたあの瞬間と一緒、自分だってやっぱりこんなにもいやらしい動物。


 きみが、たりないからって、こんな。


「 ん、」

 あの存外に器用な彼の長い指が上半身を包む布地の中を潜ってオレの素肌に接触を、瞼を閉じて鮮やかにその感覚が映えるように。


「んん…」

 脇腹を撫でて游ぐ掌と指先。すぐにそれらは胸の突起へと辿りついてしまって、それはひとえに自分の思いが逸っている証拠だ、高鳴る鼓動。期待にはやくも小さく尖ってしまっているその場所に触れてみる、擽ったい様な何ともいえない甘さ、今度は軽く摘んでみた。緩やかではあるが先程よりかは幾分も確かな痺れが爪先を走る。

「ん、んん…ごくでら、く…」

 衣服の外から見てもあからさまに浮かび上がっている胸端。そこを自ら触って気持ちよくなってしまって、けれどまだまだ足りずやんわりと布地を押し上げている下肢へとのばす手、留め具とジッパーを解く小さな音が独りきりの室内に零れた。

 そろそろと触れてみると下着が少し染みている、指端に自身の粘質な体液が絡みついた、そのまま布地の外からなぞってみる。獄寺君のするような動きを思い次第にそこを握りこんだ、布と擦れる感覚はそれはそれで気持ちいいがもどかしい。彼はそうやって焦らすことが多々あった、直に触ってほしくて我慢出来ず懇願するまで、先走りの欲汁が溢れ過ぎて下着をびしょびしょに汚しきってしまうまで。どうしようもない射精感に脱がせて欲しいと許可を求める声を待つこともある。

 けれどこうして焦れったい快楽に燻れば燻るほど、全身の感度は確かに上がっていった。同じ量の刺激で尚一層の心地善さが訪れている、びくびくと震える先端を生地越しに撫でるだけでもう先程から止めど無く垂れ流れるいやらしい液をどうすることもできなかった。

「…も…、や、ぁ」

 いい加減直接触ったときの快感を我慢できずにぎこちない動作で下着をずらす、下げればいいだけだと判ってはいても獄寺君との行為をもっとリアルに感じたくて手をかけ膝辺りまで下げたトランクスを足の爪先に挟んで脱ぎ去る、足首をすり抜けた一瞬生じた身悶えの意味ならば身体が覚えている。
 空気にふれて熱いそこは仄かな温度差に震え。理性の欠如した内面が誘うまま快楽を待ち侘びる場所に指先を絡ませる。直に触れた自身は想像以上に熱くて少し驚き、けれどそれを凌ぐ感慨に脳裏は直ぐさま占められて。

「ぁは…、ん、んぅー…ら、くん、」

 獄寺君がいつもそうして追い立てているのを真似て包み込む様に握り上下に扱いてみた、恥ずかしいまでの多量な液にまみれてぬるぬるとし過ぎる自分のものは擦る度にくちゅくちゅといやらしい音を立てて、自分しかいない静かな部屋にその水音は留まることなく漏れ響く、思いの外大きく聞こえてしまうその卑猥な粘着音が自分の鼓膜を叩いて羞恥で更に顔が熱くなったのを感じた。

「ンンん、」

 気持ちいい、のは確かだけれど、どうしても物足りなさが付き纏う。精一杯想像力を働かせ記憶を手繰りよせてみようとも自分の掌は小さすぎて到底彼のものだとは思えなかった、かさついてもいないし荒れてもいない。獄寺君のそれだと思い込むには聊か必要な因子が欠けていた、そのどうあっても揃わない欠片。


 達するには及べ無い、足りないのは思考の働きなのか快感なのかそれとも。


「っ…ごくでら…く、ん、」


 もっと、もっともっと別な。彼が与えてくれる容赦無いまでの快楽が欲しい。こんなにも生温く自身で以って生み出すようなそれでは駄目なのだ。
 淫液にぐちょぐちょになってしまった自分の手、中心から離れた指先なら彷徨う様にもっと確かな悦楽を求めた、更に奥まった場所へと伸びる願望。


 自身から零れたもので濡れぬかるんだ窄まり。そこへ獄寺君が挿入ってきた時のことを考えるとそれだけで背筋を這い上がるものがあった。内側にある奔流、その源を刔るあの質量。
 淫らな利き手が紡いだ記憶の再現に走る。

 恐々と沈める人差し指、呆気なく第一関節まで侵入を果たしたそれで、絡み付く内壁に圧迫されつつも自身の中を押してみる。けれど肝心の場所には行き当たらなかった。続けて中指も含ませてみた、だが押し入ってきた時にぞわぞわと少し肌が粟立つ程度の感覚と、増やされた容積にただ期待感が募っただけに終わり、却って中途半端に煽らされてならない。もっと大きなものが必要だった…奥まで届く、何か。



 煙ったようにくすんだ眼で周囲を見渡す、もうこの際何でもよかったこの熱を増す一方の中が埋まるものならば何でも、爛れた様に疼き出す内壁と情緒。精神なんて言えるような思考回路は既に焼失していた。なかを充たせるもの、探しては視界が捉らえるシャープペンシル、目覚まし時計、やりかけのゲーム……、

「…ッく…ンぅ……」

 なかなか目星いものが見付からず一層霞み出す意識、だからそれが目に入った時後先何一つ考えず手に取った、壊れて後で使い物にならなくなってしまうかもしれないなんてそんなことはどうでもよかった、今なかを充たせれば、この頼りない指よりも奥へ届くなら。それがすべてだった自分の身体のことまでも考える理性もない、革製のカバーケースから抜き出したそれは明日のテストに備え練習する為に家へ持ち帰ってきたアルトリコーダー。



「くっぅ…ッッ!」

 奥に宛い一息に先を埋めた、指などよりは余程に確固たる体積に詰まる息を大きくはきだしながらずるずるとそれをなかへ侵行めてゆく。

「ひぅ…ア、あぁ…ッはあ、うン、」

 上部首の丸く膨らんでいる部分でつかえたが腰を浮かせてゆっくりと馴染ませるように挿入すればなんとか納めることができた、後は驚く程順調に滑ってゆく。はじめ締め付けるばかりだった内襞もやんわりと慣れ拡いていった。

「…ン、んん……ッア!」

 掻き交ぜる様にして中を探っていたさなか埋め込んだそれの先端部分が自身の弱い一点を掠った、途端駆け抜ける衝撃、同じ場所をぐりぐりと押せば続け様に沸き起こる鋭い快感に。溺れたように何度も刳った、今自分のなかを犯すのは獄寺君のそれなのだと思い込んで。

「ふ…ッくぅ、ヒあ、…ク、いっちゃ、あ、ア」


 どうしようもない場所。そこにのみ齎された刺激に達する、ビクビクと悸く四肢。堪え性の足らない自分を追い詰めるには生理的に充分過ぎた快源の泉を乱したのはけれど彼じゃない。






 満足感などひとつもなかった、無機質で本来全く用途の異なるそれを力無く引き抜いた、猥らな音をたてて体内から取り出されたリコーダーはゴトリと鈍く床の上に沈黙する、自分もまた乱れた息のままカーペットに身を委ねた、起き上がる気力も残っていなければ衣服を正す力も無い。

「……んな、ぃ…、」

 投げ出したままの腕。てのひらはただ虚ろに何も無い宙を掴んだ、時刻は今五時半くらいだろうか、暗い室内に醒めやらない身体を持て余す自分が、ひとり。
がらんどうな心に翻弄されながら中身の無い夢の墟に、沈んで。







 唐突に鳴らされたインターフォンに意識を引き戻された。
 続け様に二回、間をあけず三回四回…せっかちな突然の来訪者。

 一体誰だろうか、こんなに連続して玄関チャイムを鳴らすなんて相手に対して失礼を顧みない……、


 刹那浮かんだ淡い嘱望。けれど多分違っているのだろう、いつだって甘い希みなどは叶わない。胸を高鳴らせてはいけないのだ、逸る思いを抱いては。


 呼び鈴の音が止んだ。


 ガチャリと、玄関のドアが開く音。鍵を閉めていなかった、もしも泥棒ならこんな自分のみっともない姿を見てどんな風に思うのだろうか、母が帰って来たのならばそれはそれで困るなんてどこか浮遊した思考が客観視した、未だ乱れたままの衣服をどうする気も起きない自分。

 否本当は、


 もう既に期待は予感ではではなく確信へと姿を変えていたのだ。誰に案内されるでもなく勝手に玄関で靴を脱ぎ恐らく真っ暗である階下を何とか歩く人物、彼が呼ぶのはたったひとつの答、


 オレの存在を他と別けた、そうきみだけの呼び方で今。


「10代目ー? 居るんスかー、」

 足元が見えず危ないだろうに勢い付けて階段を駆け登ってくるきみ、足音も声も近づいてくる、もうオレの身体に直接響いてくるみたいな、


「10代目ー、」

 半開きのドアを開けた、きみと暗闇の中視線が交わる。けれどもそれは闇に目が慣れたオレにしか見えてはいない。

「ごくで…ら、くん、」
「10代目! やっぱり居たんスか、鍵開いてたし返事無かったんで上がってきちまいました、」
「 たんない…、」
「……へ、」
「たんな、いよお…、」
「? 10代目…電気つけますよ、」

「いい、」

 オレの言葉に重なるようにして稻光が、室内を閃き照らした。オレの剥き出しのままの下半身もいやらしいことに使ったアルトリコーダーも余すことなく浮かび上がる。無論獄寺君の眼にそれらが捉らえられない筈がない。見開かれた目がオレを凝視した、明白の許。



「ご、くでらくん、が…っひとり、にっする、か…ら、」


 またも滲み出す涙は止まらなくてオレは小さい子みたいにしゃくりあげた、抑えるすべをしらない憤る様な嗚咽が息苦しく。

「…ひとりに…っしな、…って…言…たのに、」
「10代、」
「っ…うそつきぃ…、オレ、おれを…ひとりに、しな…っで…、……」

「……ッ」





 相変わらずの雷鳴、
軣いた霆と共に崩れ落ちて重なった二つの影は今この時にのみ音も無く世界から抜脱して。










        tail.

      20060616







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