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物理学論に態々付随させた理由に価値など無い。と、彼は言った。




彼の中のフィジィ






 自在箒が木目の床を何度も滑る音だけが、しんと静まり返った放課後の理科室を統べている。
 夕映えのグラウンドは、部活動に勤しみ駆けまわる生徒達に占められ、活気溢れる歓声がしばしばこの閑寂とした旧校舎の一角までも届いた。
 漏れ入る落暉が鮮やかに染め上げる室内を、独り長い柄の箒を不自由げに扱いながら清掃する少年がいる。沢田綱吉だった。
 痩身の華奢な肢体は今斜陽の朱に彩られ、瞠目すべき程の美しさを放っていた。蕭然とした空間は、然れど少年の存在を伴って、あたかも一枚の名画の如し壮美さを飽和している。追求された美を以って生まれ得たものの様であった。
 ツナの細い下膊がゆっくりと行き来する度埃が一箇所に集まってゆく。繰り返される規則的な動作、経過した時間と比例して結果のでる単純な作業の反復。ツナは足元に向けていた目線を実験器具の乗った黒塗りの台板へと移した、どの器具も先の実験で用いたものである。
 授業で幾度も使っているとはいえ、日常的に使用している訳ではないそれらはやはり興味を催させる対象であった。誰に咎められることも無く物珍しい器物らに触れることが出来る好機と、ツナの足は自然その場に向かった。


 ガラスのビーカー、円錐型のフラスコ、木枠に立てられた何本もの試験管、アルコールランプ、三脚に金網、メスシリンダー、ピペット、シャーレ、クリアチューブ……。

 手にしたビーカーは、はっとする程の冷たさを持っていた。曇り一つ無いそれをまじまじと見詰める。つい先程までは二酸化マンガンと水が入っていたが今はもう綺麗に洗われていた。



「科学に興味あるんスか?」

夕陽の射さぬ出入り口付近から声がした。新校舎の方の理科準備室へ資料を返しに行っていた獄寺隼人が戻って来たのだ。
 
声の主の方向へと視線を上げたツナだったが、照明を点けてはいなかった為、夕刻の理科室は部分的に全くの暗がりとなり、獄寺の姿を捉らえることは出来なかった。


「獄寺君、ごめんね重いの頼んじゃって…、大丈夫だった?」


 姿は確認できぬまま話し掛ける。室内を占める陰の面積が徐々に広くなりつつあった、日没が近い。



「あんなのヨユーっスよ」



 暫し間の後。獄寺の声が何故か至近距離で聞こえた、刹那。

「…ッッぅわ……っ!」

身体を仰向けに反転させられ黒台の上に組み伏せられる。手に持っていたビーカーを取り落としそうになって指先に咄嗟、力を込めた。
 獄寺は気配を消してツナの背後に回っていたのだ、さながら狩りのさなかの猛獣という様相で。

「…それよか10代目、実験道具なんてエロいもん持ってますねえ?」

 鼻先が触れ合う程の咫尺で獄寺が囁く。煙草と薄く香るオードトワレに混じって獄寺自身の体臭が淡く鼻腔を擽った。

「あ…の、獄寺…君、……ッ!」

 何でしょうか、と。呼び声に律義に応えながらも獄寺は着々とツナの衣服を剥いでいく。ネクタイを取り去りブレザーを脱がせシャツの第三ボタンに手をかけたところで漸く思い出したかの様にツナが抵抗を始める。

「や、やだよ、獄寺君! やだ、止めてよこん、」
「こんなところだからこそイイんじゃないスか」

 楽しげに、されど不穏な色合いをありありと滲ませつつ笑ってツナの言葉を遮る獄寺。質の悪いその微笑が、どう足掻いたとて諦めさせる事など不可能に等しいことを物語っていた。窓の外に目をやると、急激に色を変えてゆく空が見えた、拡がる透彩の天蓋。溺没しつつある落日の残照が、遠く緋い翳をつくっていた。



不埒な銀飾の指端が理性を蝕みゆく。

緩慢な手つきは、けれど確実に抑制心を削ぎ落としてゆき。快楽の揺籃としては幾分か焦れった過ぎるそれが却って燻る様な火種を生み出した。
 他に鎧うものの無い剥き出しの滑らかな下肢、その内腿を男の掌がやんわりと撫でさする。白絹の如し柔らかなそこを、不躾に触れ入った故指輪の痕があかく少年のそこに残った。

「知らなかったスよ、10代目がこういうの好きだったなんて」
「……? な、にが……」
「折角だし使ってみましょうか」
「え……?」

口元を緩くカーブさせて笑う獄寺の零した発言の意味を解せずに、ツナの双眸に不安さが色濃く浮かぶ。節榑立った男の長い手指がひらり、眼端をよぎった。
 冷たい金属音が小さく響く、視線を流せば獄寺の手が試験管の一本を掴んでいた、太めの中指位の大きさをしたそれは充分に研磨され綺麗に透き通っている。

「面白いと思いますよ? こういうのも」

 獄寺が手に持ったその円筒状のガラス製容器をツナの頬に滑らせる。白磁器の様な繊細さとなめらかさを併せ持つその未だあどけなくふくよかな膨らみをもつ頬丘には今や朱鷺色の紅が差し、可憐さを増していた。
 ひんやりとした突然の刺激にツナはびくりと躯を強張らせる。すぐに温まるからと宥める言葉をかけ、獄寺は更にするすると試験管を這わせ撫でていった、絳く映える小さな唇をなぞり、青白く細作りな首筋を辿る。どの部分に触れても、ツナはその都度躯を小刻みに震わせた。やがてそれが淡く色付き浮かび上がる胸上の丹へとゆきつくと、獄寺は身を屈め自身の舌を伸ばした、薄暮の夕闇にちらつき映える紅い舌。第三ボタンまで肌蹴られた制服のシャツの布越しにその幼い胸尖を舐める。白いシャツに薄桃が透けた、視覚的にも卑猥極まりない。その間も左手に持するガラスのそれがもう一方の突起に刺激を与え続けた、熱く巧みにねぶる粘質な器官が齎す生々しく直接的な快感にも、試験管がぐりぐりと押し擦るたび布地越しで伝わる無機質な感覚にも過敏化したそこは過剰に反応し、ツナは得も言われぬ悦楽に苛まれる。

「んっ……ふ…ゃぁ…」
決して激しい行為をされている訳では無く、しかし堪えようも無い享楽が襲う。一度も触れられていないツナの花蕊は先程からはしたなく勃ち上がり、その可愛らしくひくつく鈴口からは甘蜜が止めど無く垂れ流れ続けていた。だが一糸纏わぬその場所を伝いゆく潤滑なぬめりが柔腿を濡らしていることに気が付きながらも獄寺は一切その場所へ手を伸ばそうとはしなかった。清浄な存在が淫耽に懊悩する様は酷く背徳的で、獄寺を蠱惑して止まなく、清白の無垢さがあられもなく乱れゆく様をもう暫し堪能させて貰おうと、弄案を謀るその男は甚だ狡獪で、且つ牡本来の獸性に正直だった。

「も、あの、ちが…と、こ触っ、て……」
「ああ、そっスねえ…」

 獄寺は名残惜しげに一度強くその場を吸い、されど唇はツナの躯から離れること無くそのままするすると下へ下りていった。薄く浮いた肋骨をその感触、窪みまで堪能するかの様に愛おしげに接吻し、広い掌はほんのりとやわらかさの残る脇腹を愛で慈しむ様に撫で摩った。

「ひぁッ……!」

 ぼうっとぬるむ紅潮した意識に浮遊感を味わっていたツナを唐突な刺激が襲った。下肢、その狭間奥に秘められた場所へ。先程までツナの躯を這い蠢いていたくだんの試験管が留まっていた、秘莟は未だ口をひらいてはおらず、だがツナ自身が零した多量の蜜によって、もう既にそこは濡れそぼっており、もはや物欲しげな動きを見せていた。収縮弛緩を繰り返すそこは精神と切り離して捉らえるのが相応しい。

「ほら、力んだら駄目じゃないスか」

 宥める様に襞をなぞり頃合いを見計らう獄寺。ガラスの底が口を行き来する度にツナはその身を震わせた。反応どれ一つ取っても獄寺を煽る。正に虜だ、一挙手一投足何もかもが堪らない。

「ンぅ……、ごく、でらくん……」

 鼻にかかった耳心地良く甘い声、馨しきその色香。控えめに上げられた双眸から為るその視線は危うすぎるのだ。劣情が止めど無く迸って仕方が無い、揺蕩う瞳に湛えられたこの色に。

「……! あアッ…んんう…ぅ、ふ、あ……ぁ」

皓皓誘うツナの首筋。誘われる侭衝動的に獄寺は噛み付いた、それはさながら月桂に魅せられし野狼の様相で。透き通るような白雪のそこに自身の歯で以って紅い痕を付けた、消えぬ程の強さで。うっすらと口内に血の味が香る、傷口を舐めしゃぶる様に愛撫した。それでもなお貪り足りない狼は同時にツナの後孔へとガラスのそれを捻じ込み、首筋への口弄のさなか力の抜けたツナの隙を盗んで添えていた二本の指まで挿入した。
一度に加えられた内部を襲う衝撃にたおやかな体躯は幾度となくびくびくとうち震え。

「あ……はぁ、は…、あぅ……」
「息をゆっくり吐いて、そぅっス、大丈夫ですよ、いつももっとデカいの挿れてるんだし」
「っ…! そ、れ……ッアあ!」

 中のものが動き出す。始めは緩やかに様子を見るかのような、やがて収縮し締め付けるばかりだった粘膜が解れだすと今度はそれらをばらばらに動かす動ききに変わる。大分自由な所作が可能になる程まで拡がり出した頃その動きは緩急をつけて出し入れする動作に変わった。時折指にぬめりを掬い絡ませて足していたが、今はもうツナの先走りも去る事ながら内側からも潤みだしたことによって何の不自由も無い。むしろツナ自身が物体を求めていた、内壁が蠕動し自ら絡み付く程に。

「ん……は、ぅ…んんぅ…ふぁ……」

 揺らめくツナの細腰が不安定に浮き上がる。

「自分から腰なんか揺らしてどうしたんスか?
10代目」

空々しくもとぼけたことを言って見せる獄寺は至って愉しげな面持ちだ、対照的に涙さえ浮かべるツナは中途半端過ぎる感覚に燻火ばかりを育てられるこの状況が疎ましくてならなかった。試験管も指も、望む場所には掠らない、けれども中で蠢くものを感じ取る都度確実にそれらの存在は意識してしまうのだ、溺れることも醒めることも許されないこの状態の何という魘夢。

「だ…て、ごく、でらく、ん…全然、…ッ…」

 消え入りそうな声で、されど必死の思いを込めての催促をするも。

「オレ、が全然、どうしたんスか」

 意気地の曲がった回答しか返って来ず、何故今日の獄寺はこんなにも意地が悪いのかと胸中でツナは歎いた。

「……あ、…ぅ、だ、だって、こんな、じゃ……」

 心許ない面差しで必死に自身へ訴えかけるその様に。獄寺は更なる企てを思い付く無闇に嗜虐心を掻き立て止まない、その真剣さに囚われ。姦計の手立てならば直ぐそこに有る。

「…じゃあ…そうっスね。そろそろココ、……オレが挿入ってもいいっスか?」

 やっと煩悶から開放されると。
 胸を撫で下ろしたツナを尻目に、ビニル製のクリアチューブを獄寺は手に取った。すっかり宵闇に包まれた理科室の中、月明かりを受けたそれが妖しげに揺らめく。



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