きっかけなんてどうでもよかったんだよ。
【細胞の総てで。】
Vol.6:「自分の体を構成するそれらがそう主張しているならば、きっとそれは自分の深層心理。」
なぜこんな状況に陥ってしまったのか。獄寺は再びおおいに悩んでいた。
ここはマクドナルドで、目の前には山本が居て、山本が楽しそうに喋っているのは席を挟んで隣の綺麗なエロギャルで、
その綺麗なエロギャルが時折好き好きビームを送っているのは斜め前にいる雲雀で、獄寺はその雲雀が好きで、
(俺、もう悪いことしませんから・・。)
獄寺はもう神に祈るしかなかった。
雲雀は寡黙だった。
たまに山本とエロギャル(仮)の会話に巻き込まれて相槌を打つ意外は、ただ気だるそうに携帯を弄っている。
そして、時折、獄寺を見るのだ。これが一番、困る。
気のせいかもしれないけれど、なんだか、自分を見つめる雲雀の目が優しい気がするのだ。
まるで、愛しいものでも見るような其れは、困る。
(人の気持ちも知らねーでそんな顔して見んなよ・・。)
きっと女性に対して外面の良い雲雀のことだ。
エロギャル(仮)が居る手前、迂闊にいつものような不機嫌な表情をするわけにはいかないのだろう。
その延長線上で獄寺におこぼれが来るだけだ。たとえそれがどんどん獄寺の表情を曇らせることになろうとも。
素直に喜べるはずなんてなかった。
硬い椅子から腰を上げた。
「やまもと、」
「マジでー!はは、ん?どしたの獄寺。」
「俺、ちょっと用事思い出したんだ、だから」
「あ、じゃー俺送ってって・・」
「送ってってあげるよ。」
がたり、と音がして斜め前の雲雀が立ち上がる。
「・・・へ?」
「だから。送ってってあげるよ。」
起きろ、俺。
耐え切れない現状でついに意識を失ってしまったのか、夢を見ているみたいだ。
早く起きて帰らなきゃ、と獄寺は自分の頬をつねった、痛かった。
「えぇ、恭弥帰っちゃうの?」
「雲雀、獄寺なら俺が、」
「僕も用事があるんだ、ごめんね。山本、その子頼んだよ。」
「もお〜。武くん、恭弥なんてほっといてこの後遊ぼーよっ!」
「そっすねー!んじゃ獄寺、雲雀に送ってってもらえよ!」
「いつまでそうしてるの、ほら、行くよ。」
未だに状況が把握できず、頬をつねったまま立ち尽くしていた獄寺の手首を、雲雀がとる。
意外に高い体温、骨ばった指の感触、息が、できなくなる。
気付けば獄寺は雲雀に手を引かれたまま、帰路についていた。
帰り道はどっちなの、とか、それじゃあ結構近いね僕んちと、とか、そんな会話を交わした気がするけれど。
繁華街からすこし逸れた夜道は閑静な住宅街で、静かだ。
等間隔ごとに設置された街頭のせいでぼんやりと明るい21時過ぎ。
未だに掴まれたままの左手首が、あつい。
心臓がうるさくてうるさくて。血管から雲雀にそのドキドキが伝わらないかどうか気が気ではなかった。
耐え切れない。
「っ、ひばり・・!」
「何。」
ずっと黙ったまま早足で歩いていた雲雀が、口を開く。
聞きなれているはずのテノールは、なんだかいつもと違う感じがして、そんな些細なことにまでいちいち高鳴る裏切り者の心臓を憎んだ。
「あの・・手・・!」
「ああ、ごめん。」
す、っと離された手のひらに、安堵、少しだけさびしい。
「お前さ、あの女の人置いてきて良かったのかよ。」
彼女じゃねえのか、と言いかけてやめた。辛くなるだけだ。
「ああ、大丈夫でしょ。山本とかいう奴が一緒だし。今日だって偶然会っただけだしね。」
山本か・・あいつだけ良い思いしやがって・・。エロギャル(仮)とデートかよ・・。
自分なんてどうだ。好きでしょうがない相手に送って貰っているというのに、何ら良い思いなどしていない。
ただ、ちらりと盗み見た雲雀の横顔が柔らかい表情なままなのが救いでもあり、でもやっぱり、苦しかった。
(なんでそんな顔してんだよ・・ムカつく・・。)
「髪、切ったんだね。」
(でも一番ムカつくのは、こいつのこんな一言で幸せになっちまう俺の思考回路だ。)
「失恋でもしたの?」
しかしその一言が獄寺の中でやっとのことで保っていた一本の線を、切った。
「・・・れが・・。」
立ち止まり俯く獄寺の小さい声を聞き取れなかったらしい雲雀が、足を止めて振り返り、覗き込む。
「え?」
獄寺が顔を上げた瞬間、雲雀は目を見開いた。
「おれが!!どんな思いしてんのか、知らねーくせに・・ッ!!」
薄暗がりでもわかるほど長く伸びた睫毛に縁取られたエメラルドから、ぼろぼろと涙を流す獄寺が、そこにいたからだ。
「え、ちょっと、ごくでら、」
「俺がどんな思いしてんのか知らねーくせに!!何が失恋だよ、あーそうだよ失恋したんだよ!!」
「っ、!」
知らなかった。獄寺が誰かに恋をしていただなんて。
雲雀は後頭部を殴られたような衝撃を感じて、動けなくなる。獄寺に伸ばしかけた指先を握りこんだ。
やっと気付けた、時にはもう遅かった、なんて。
獄寺を大切に想っているこの気持ちを、誰かを好きになることを、初めて思い知ったのに、こんなにあっさりと。
「ごくでら、」
それじゃあ僕にしときなよ、なんて言葉が喉に引っ掛かってまた元の位置に戻っていった。
そんな都合の良い事、言えるわけがない。
「んだよもう!!俺の気も知らねーでそんな顔すんな!!」
「・・え?」
「お前に失恋したってのに!もうやだ・・!!」
雲雀はとりあえず耳をほじくってみた。
難聴?でも今、確かに獄寺は、
「僕に、失恋した、の?」
はっとしたように獄寺がこちらを見る。
その白磁の頬が、どんどん赤く染まっていくのがぼんやりとした明るさの中でも鮮明にわかった。
「いや、だから、くっそ、しくった!」
言うつもりなかったのに!と一人で慌てる獄寺の薄っぺらい肩を、雲雀の長い指が捕らえる。
「っ!」
さらに赤くなってゆく獄寺に、雲雀はすこし自信を取り戻したようにたたみ掛ける。
「ねえ、獄寺、僕に失恋、したの?」
「・・っ、もう良いだろ!?」
「良くない!」
いきなり強く言い放った雲雀に、獄寺の肩が揺れる。
目の前に 見たことのない表情をした雲雀が いる。
ああ、気持ち悪いって思ってる、拒絶される、獄寺はぎゅ、と目を瞑った。
「良くないよ、君が僕以外の人間に失恋したなんていうなら、そいつ、殺しに行くよ。」
「・・え?」
「君が僕に失恋したんなら、それは間違いだ。」
雲雀の細長い指が、獄寺の首筋を暴いて、そこにまだ残っていた自らが付けた痕をなぞった。
「だって僕も、こんなにも君が好きなのに、君はそれでも失恋した、っていうの?」
獄寺はとりあえず耳をほじくってみた。
聞き間違い?でも今、確かに雲雀は、
「俺のことが、 す すき ?」
「・・悪い?」
「嘘だろ、だってお前女が、」
目の前がいきなり真っ暗になって、ちゅ、とかわいらしい音がした。
「これでも信じてくれない?」
獄寺は初めて死を覚悟した。
心臓がもう限界ですと訴えてくる、バクバクする、間近にいる雲雀からうすく、高貴な香水のにおいがして、
「失恋、してなかった・・!」
「ほら、だから言ったじゃない。」
柔らかく微笑む雲雀がそこにいて、体中の細胞が、こいつが好きだと叫びだす。
真っ赤な顔をして自分を見つめる獄寺がここにいて、体中の細胞が、この子が愛しいと暴れだす。
細胞の総てで、君を好きだと、。
END.
(2008.05.12)
***
◎ お ま け ◎
「獄寺、何か良いことあった?」
最近獄寺が可愛い。
いや、前から可愛いんだけど、信じられないレベルまで達してる。
俺は気が気じゃなかった。こないだ雲雀のお陰で隣町の女子高のエロいおねーさんと付き合えることになったのに!
(なんか、おねーさん雲雀が好きだったけど、雲雀になんか本命ができたらしくて、俺にするって。ラッキー☆)
「べつになんもねーよ。」
じゃあ携帯見ながら嬉しそうにしてるのはなんで。
あの日から、獄寺がおかしい。
おかしいくらい可愛い。ちょっと短くなった髪も似合ってる、かわいい。
と、そのとき、獄寺の携帯が震えた。
「もしもし、あ、うん今行く。」
ほら、そのうっれしそ〜な顔。
「すまねー山本、昼飯ちょっと別んとこで食ってくる。」
「おーツナ誘うからだいじょーびー。」
俺はおとなしく、嬉々として教室を出て行く獄寺にいってらっしゃい、と手を振った。
なんてね!後つけちゃいますけどね!!
俺、獄寺に男ができたんだと思うわけだ。
なんで女じゃなく男かっていうと、あの可愛さが理由。
女相手にあんな可愛くなるわけねーし、あんな可愛かったら彼女がかわいそーだろ。
そんなMな女そうそういねえよ。それにあいつ外国の血混じってるし、あっちで住んでたこともあるし。
同性愛とかそういうのに拘る奴じゃねえと思うのな。だから結論、彼氏ができた。しかもこの学校の生徒。
るんるんなんて擬音が聞こえてきそうなほど軽やかに階段を駆け上がっていく獄寺の後ろをこっそり追いかけて、
獄寺が消えていったドアを見つけた俺は、唖然とした。
「風紀、委員長、室・・!?」
拝啓、父ちゃん。
俺が長年慈しんできた愛しい愛しいあの子が、
鬼のようなあのやろーに知らねー間に奪われちまってたのな。
切腹ゥゥウ!!!!!
END.
ここまでお付き合い下さりありがとうございました!
今回ベタベタのBLっぽいものが書きたくて(毎回の間違い)、それらしく書いてたつもりが、もうわけわかんない・・。
結局ギャグです。所詮私なぞにシリアスだとか切ないだとか甘酸っぱいだとかは書けませんでした。
存在自体がネタですみません。
とにかく、当サイトはヤリチン×ドーテーをプッシュします!!!@最低だな!
無料HPエムペ!