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「うりゃっ!」


家に帰ってきた途端、何かが顔目掛けて飛んできた。ぱす、という音を立てて丸い物体が落ちる。少し驚きはしたものの痛くはない、なんだ?いったい。


「おかえり」
「一希ちゃんったら酷い、お疲れ傷心の俊二くんに向かってこんな仕打ち!」
「先食べとるぞ」
「聞けよ」


まったく人の話を聞きやしない、それを言ってもどうせすまん、と一言謝るぐらいだから何も言わないが。
瑞垣はわざとらしく息を大きく吐きながら、例の丸い物体を拾い上げる。どこかノスタルジックな少し色褪せたような赤、青、黄、緑、桃。球体状のそれは軽く力をいれるだけでかさりと音を立てた。


「懐かしいじゃろ、紙風船」
「懐かしいも何もこれで遊んだ記憶とかねえよ」


海音寺のほうに紙風船を飛ばす。ふわりと浮いて、海音寺の手の中に収まる。彼は少し紙風船を眺めると、そっと机の上に置いた。


「俺は両親も姉貴も家にいない時、これでよく遊んだんじゃ。結構楽しいんじゃぞ」


机の上に並んだサラダの中のトマトを挟みながら海音寺が呟く。瑞垣は聞いているのか聞いていないのか分からないような生返事を返すと、椅子を引いた。海音寺のほうも返答は別に期待していないのだろう、挟んだ真っ赤なトマトを口に放り込んだ。


「あ、先に手洗ってきてから食えよ」
「はいはい」


おどけたように瑞垣が降参のポーズをとる。それを気にするようでもなく、海音寺が軽く紙風船を叩くと、それは渇いた音をたてた。














「で、なんでこうなるんじゃ?」

ぱん、ぱん、と渇いた音に乗せて紙風船が瑞垣と海音寺な間を行き来する。ふわりと浮く紙風船は、思いもよらぬ方向に飛ぶ。力をいれてもなかなか前方に上手く飛ばない上に、下手をすると破れてしまうから少し慎重にもなる。
明日は雨じゃろうか、もしかしたら季節外れの雪かもしれん、などと失礼なことを呟く海音寺に向かって少し力をこめて紙風船を叩く。思いの外上手く飛んだ紙風船は海音寺の頭上を超えた。わっ、と小さい声を出しながら海音寺がそれをキャッチすると、そのまま後ろに寝転がった。


「はい、一希ちゃんの負けえ」
「はあ?」
「罰ゲームは料理当番一週間継続で」
「馬鹿言うな」
「勝負は勝負でしょ」
「勝負なんかしとらん、こんなの横暴じゃ」
「ふふん、敗者は全員俺にひざまずけばいいの」
「勿論お断りじゃ」


第一、お前毎日帰ってこないくせに。料理作っても意味ないじゃろう。海音寺は起き上がりながらそう言うと紙風船を瑞垣向かって投げる。緩いカーブを描いたそれを瑞垣が容易くキャッチすると、海音寺は悔しそうに唇を軽く尖らせた。


「じゃあ、毎日帰ってくる」
「…は?」
「だから、毎日帰ってきてあげるって言ってるの。まあ一週間だけだけど」


ぱちぱちと二回瞬きを繰り返した海音寺に、瑞垣は喉で笑うと、口角をあげながらニヤリと笑った。





「これで、紙風船なんか要らんやろ?」




してやったり、と笑う、その顔に。息が、詰まった。





その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。つまり、つまり…バレたのか?
さっと顔が青白くなったかと思うと、じわりと耳から熱くなる。やばい、バレた。一番バレてはいけない人にきっとバレた!

海音寺は自分の手で顔を覆いながら後ろへ倒れる。じわりじわりと上がっていく体温に目眩がした。目の奥がチリチリと痛んだ。





さ、紙風船なんかポイしましょ





66記念!瑞海よ永遠なれ!


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