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「きゃっ、砂糖こぼれちゃった!」

「わわわっ、焦げてる!」



瑞垣はふぅと誰にも見えないように、小さくため息をついた。何でこんなとこにおるんや、俺は。


「俊二君っ、ごめん、これお願いできる?」

「あ、はい、ええですよ」


にこりと微笑み、ケーキの生地が入ったボールを受け取る。その生地を見つめて、もう一度ため息をついた。
















香夏が、家に帰ると待ち構えていた。珍しく部活を休んだのか、早い帰宅だ。香夏は俺を見るなりぱぁっと目を輝かせた。

「なんや、香夏、調子でも悪いんか?」

「何言ってるのお兄ちゃん、うちめっちゃ元気やんか」

「みたいですね…で、何でや、今日部活休んだんか?」

「今日ら、誰も部活行けへんもん」

「は?」



香夏は、何や分からへんのと笑うと、ぐっと手を突き出してきた。それにふと目をおとす。


「バレンタインデーやん」



その手には赤いエプロンが握られていた。















「うわっクリームが飛んだっ」

「ちょっと貸してみ」



あれから香夏は俺にチョコレートケーキを作る手伝いをするように言ってきた。何で俺がと問うと、お兄ちゃんのほうが器用なんやもんと答えた。結局手伝うはめになって、チョコレートケーキをひとつ焼いた。甘い匂いがまだ残っているような気がする。今度は友達へのトリュフを作ると言うから、じゃあこれは誰にだと問うた。香夏は少し頬を赤らめて(あぁ何だか分かったような気がする)言った。


「海音寺さん…とお兄ちゃんへ」


あぁやっぱりな










「ごめんね俊二君手伝ってもらっちゃって、一希こういうの下手で」

「姉貴!」

「いえいえ」



先ほど海音寺から受け取ったホイップクリームを、焼けた生地の上に飾っていく。つぶれた形のものの横に、綺麗な形のものが並び、何だか不格好で笑えた。海音寺が睨んでいるような気がするが、お姉さんも笑っているから大丈夫だろう。



「出来ましたよ」

「きゃあ、可愛い」


可愛らしいピンクの箱にケーキを詰める。どうやら海音寺の姉はどちらもセンスが良いようだ。きらっきらのものではなく、落ち着きながらも可愛らしいものが出来上がった。



「っじゃあ一希!私出かけるから!」

「うん」

「俊二君、ゆっくりしていって!」

「はい、ありがとうございます」



バタバタと姉二人が出かける支度をする。それじゃあ本当に有難うねと言うと二人とも慌ただしく出かけていった。
瑞垣はそれを見送ったあと、居間のソファーへと座り込んだ。


「つ、か、れ、た」

「瑞垣、本当に有難な」


海音寺は俺の横に座ると、毎年あぁなんじゃと苦笑した。


「まるで嵐やな」

「うん、でも本当に助かったけぇ。俺飾り付けとか苦手なんじゃ」



困ったように笑う海音寺を見ていて、ふとここへきた本当の理由を思い出した。ごそりと紙袋を探り、中から水色の箱を取り出す。



「なんじゃ?それ」

「チョコレート」



へ?という顔をする海音寺の前でふたを開ける。中から甘い匂いが漂い、鼻孔をくすぐる。ふわり。


「香夏からや」

「えっ良いんか、こんなん貰って!」

「どーぞ」

「有難うって香夏ちゃんに言うといてな!」



にこにこ嬉しそうに笑う海音寺に何故か無性に腹が立って、視線をそらした。


「あ、」

「うん?」

「お姉さん、ケーキ忘れて行ってるやん」



視線の先には、黄色の箱に包まれた(確か海音寺が必死にリボンを巻いていた)ケーキらしきものがあった。片方のリボンの先が上を向いている。


「ほんまじゃ…なぁ、瑞垣、あれ直してくれんか」

「ふふ、不格好だものね」



笑うと睨まれたが、そんなに怖くない。瑞垣はリボンをほどいた。するとどうやらリボンの下にカードが挟まっているようだった。お姉さんのものだろうか。ケーキをちゃんと入れようと思い、箱から取り出すと同時に、そのカードを見た。
















“好きじゃ、瑞垣”





書かれていたのは俺を捕らえる魔法の言葉
(俺は見るとほぼ同時に、背中から抱きしめられた)












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