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〜仙道×イチ〜
「髪切っかなぁ……」
伸びてきた髪の毛をつまみながら。
何の気なしに言ったその一言が、何故かイチの顔を曇らせた。
これは……、かなし、そう?いや、残念、って感じもあるか?
は、何で。
「……?、どうした?」
「あ、いえ、その……」
――――勿体ないなぁと思って。
続いたのは、意外すぎる一言。
勿体ないって。女じゃあるまいし。
いや女顔だけどな、すっっっげー癪だけど。
前はそこまで気にしてなかったから髪型も構わずこんなんにしてたけど、こいつと付き合うようになってからは――――……、
もう、コンプレックスでしかない。
大分伸びてきたし、切ることで多少感じが変わるなら、なんて思ったんだが……。
「勿体ないって、何」
「っ、え、と……」
思いの外不機嫌そうな声が出てしまって、イチがびくつく。
くそ。怒ってる訳じゃねぇけど、こいつにも女扱いされてんじゃねぇかと思うと――――。
けど、違った。
「す、好き、なんです。俺。仙道さんの髪が……」
「!」
「綺麗すぎて、いつも見惚れちまうんです。髪型だってすごく似合っててかっこいいから、少し残念に思っちゃって……。もちろん仙道さんはどんな髪型でもかっこいいと思うんですけど、その……」
「………。」
違った。全く違った。
イチから言われてるというだけで、俺の心情がここまで違うかという位違った。
嬉しい。照れ臭い。恥ずかしい。
でも、嬉しい。
すごくすごく、嬉しい。
「そ、そうか……」
「は、はい……」
「………。」
「………。」
二人で無言になってしまった。
あーもう。イチはイチで照れてんのか?
俺は俺で顔をにやけさせないように必死だ。万が一の為に手の平で口元を覆ってみるけど、隠せてる気がしない。
こういう時、髪の毛が長くて良かったと思う。多分今、俺の耳は真っ赤になってるはずだから。
「まぁそこまで言うなら……」
考え直してみる、なんて。
かっこつけて言ったものの、もう結果は出てる。
髪を切るにしても、現状維持の微調整のみ。これに決定。
イチはというと、俺の内心のかっこ悪さには微塵も気付いていない様子で、考え直してみる、という俺の答えに嬉しそうに頬を緩ませていた。
あーもう。くそかわいい。
「、お前は……」
話題を変えたくて、次はイチの髪型に目を向けてみる。
俺の視線に気付いたイチが、パッと自分の頭を撫でつけた。
そして、不安げな表情を浮かべて俺を見る。
「俺、は、切った方がいいですか……?見ててうざったいとか……」
「いや、んなことねぇよ。切っても似合いそうだなとは思うけど……」
――――特に襟足とか。
思いながら、イチの頭に手を伸ばす。
何も考えずに、髪の毛で隠れてるうなじから後頭部辺りをくしゃりと掻き回した。
すると。
「んぁっ……!」
びぐん!と揺れた身体と一緒に飛び出したその声に、俺も当の本人のイチも一瞬固まる。
先に我に返ったイチが、慌てて弁解を始めた。
「ち、違うんです、これはそのっ……!ちょっとびっくりして、」
「………。」
「あの、」
そんな真っ赤な顔して否定されたって、説得力なんてまるでない。
それにそんな弁解したら、何が“違う”んだ?なんて突っ込まれていじめられても文句は言えねぇぜ、イチ。
てか俺がそれして泣かせたいけど、今回は我慢する。
忘れてた俺が悪いから。
「っ……!」
今度はちゃんと意思をもった指先で、後頭部をゆっくりと掻き回す。
目をぎゅうとつぶって、びくびくと身体を震わせるイチ。
そう、こいつすっげー弱いんだよ。うなじとか、後頭部。
俺が発見した性感帯だから、間違いない。
あー、やっぱり。
「だめ……」
「、え……」
「だめだ、やっぱり。髪、」
切るなよ、と。
言って、そのまま頭を引き寄せて、強引にキスをした。
露骨な言い方だけど、お前が性感帯晒したまま普通に生活するなんてこと、俺には耐えられない。
「ん、んぅ、ふ……っ」
キスの最中に漏れる吐息混じりの声が堪らなくて、更に抱き込んで遂には覆いかぶさって押し倒してしまう。
何かから隠す、みたいに。
無意識でも弱点を隠したがるのは生き残っていく為の本能だよな、生きてるもの全ての。
そうやって進化してきただろうし。
俺もお前を隠してしまいたい。この意味分かってくれるか?
なぁ、愛しい愛しい俺の弱点。
お前が隠されるだけの、守られるだけのタマじゃねぇって分かっていても、そう願わずにはいられない。
だから俺は何度だって、こんな風にお前をこの腕の中に閉じ込めるんだ。
end
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