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時が止まってしまったかと思った。

突然の姉の登場に。


遠目にも解るその憂いを秘めた両の瞳。




「ミツバ殿…」

「あねうえ…」

「…あ―…」



あの…


やがて再び彼女の唇は言葉を紡ぐ。




「…皆さん…着物の袷(あわせ)と…下帯…、もう少し整えて、頂けますか?」


これ以上近づくと、いろいろ、丸見えみたいなので…



最後の方は、消え入りそうな姉の声に、


各々、自身の格好を再確認する。


暴れまわった俺を押さえ付けようと、皆、悪戦苦闘していた証しか。


近藤さんと土方は、寝巻きははだけ、帯は取れ、下帯丸出しだった。


…まあ俺は、浴衣肩に引っ掻けただけの、尻丸出しだったのだが。





「目が覚めたら、そーちゃん居ないし、何かあったのかって…」

「もしや、近藤さんの道場で火急の用でも出来たのかしらって、心配になって…」


無礼は承知で、夜明け前に申し訳ありません。



深々と頭を下げる姉に、身なりを改め、縁側に腰掛けた近藤さんが、これまた深く礼を返す。



「…まさか、そーちゃんが、こんなことになっているなんて…」

そーちゃんが、チョーさんになっているなんて。



辛そうに、眉根を寄せた姉の顔が近付き、白い細い指が優しく瞼を撫でる。



バレたものは仕方ないからと、近藤さんが手短にカレーが原因で下痢して切れ痔になったと、姉に伝えた。

心配かけまいとして、俺が姉に黙って此処に来たことも。


「でも俺等の指じゃ太くて、薬が塗れなかったんですよ。」


「わかりました…最初見たときナニしてるかと思いましたが…。そーちゃんのお尻の為ですもの。私が塗りますわ。」



何かとんでもない事になってないか?

あねうえに、こんなことさせるなんて。


姉の白魚の人差し指に塗りたくられているモロナインH軟膏。

その中で、深爪気味に切られ、ヤスリで丸く形採られた桜貝の爪が煌めく。


俺は、近藤さんと土方に、動かぬように、布団の上に四つん這いの身体をがっちりと押さえ付けられた。



左の尻の頬っぺたに、ひんやり姉の左手の指の感触。

「じゃ、いくわよ、そーちゃん。」

「はい…あねうえ。」


ぎゅっとしっかり両目を瞑る。


つか、ほんと、おれなんのために、ここにきたんだろ。






その時、反対側の襖が開いた。


「朝っぱらから、お前ら何騒いどるんだ?」

声の主は、師範だった。





剣豪と名高い師範は、

実は、痔主なってウン十年。

イボ痔のエキスパートでもあったらしい。


「いやイボ痔だから、切れ痔はちと管轄外なんだがの。」


師範は俺の肛門を仔細に観察し、

近藤さん達に指示を出し、風呂を沸かし直して、俺は湯槽に浸けられた。

「痔には風呂が一番!」

尻の穴よく揉んどけよ〜。

やがて風呂から上がった俺を待ち受けていたものは。
「師範。これは…」

近藤さん達も、それを眺める。


「昔は百草(もぐさ)やら灸を据えたりしだが、今は近代医学の優良薬があるからの。」


○サヤ大黒堂も捨てがたいが、今のマイブームはコレじゃ!

弾道形のそのモノは。


ポラギノールの座薬だった。




結局、

姉や近藤さんや、クソ土方の見守る中、師範の手によりその薬は俺の尻の穴の中に納められ、

コトは一段落得た。



「ミツバ殿、ちょっと話があります。」

今回の騒動の訳を近藤さんから説明を受けた師範は、
年端の行かぬ子供に、刺激物を食卓に出すのは、量も含めて、重々に呉々も注意しなければならない、親代わりに育てなさるなら、尚のことと、

姉は、師範と近藤さんから、コンコンと説教をされてしまった。


「いやミツバ殿が、総悟を可愛がって、立派に育てているのはよく判りますよ、ホント。味覚の嗜好のとこだけなんスよ、…ちょっと人とずれているのは。」

「痔は一度患うと、なかなか完治しずらい厄介なものだから、呉々も食生活は気を付けて…つか、何でミツバ殿は平気なんだろね?」

用意された布団の中で、三人の様子を伺っていて、俺は慌てて間に入った。


「あねうえはわるくないでさ!カレーおいしかったから、いっぱいおかわりして、くいすぎて、はらこわしただけだから!!」


「そーちゃん。」

「総悟。」


姉に心配かけたくない。

だから黙って、近藤さんの所にいったのに、

俺のせいで、師範から、近藤さんから、姉は叱られてしまった。


「おれがたべすぎただけでさ!!しりがよわかっただけでさ!!あねうえはわるくないから、あねうえをしからないで…」


顔を見合わせた師範と近藤さんは、怒っているわけじゃないからと、取りなしたが。


「ごめんなさいね、そーちゃん。私が不注意なばかりに…」


半ベソになった俺の頭を撫でた姉の顔も、

とっても悲しそうだった。

「いい子だな、総悟は。」

なあミツバ殿。

苦笑しながら、近藤さんは言ってたけど。



あねうえ、ほんとに。

ほんとにあのカレーはおいしかったんでさ。

さいしょのひとくちは。





帰宅の許可が師範から出たけど、

姉は近くに見当たらなかった。


心配で、俺は道場のあちらこちらを探して走った。


落ち込んでいたから心配だ。側にいなきゃ。


おれはあねうえのわらったかおがすきなんだから。


走りながら、その辺に咲いてた花を手折った。


これをあねうえにあげよう。

はなをいけているときのあねうえは、とてもたのしそうだから。

花を集めながら、裏の井戸の有るところに着いた時、

姉を見付けた。

ついでに土方も。




井戸に凭れる様にして、二人が並んで立っている。


「…元気だせば?」

「………」

「アンタがそんなだったら、総悟もますます気にするだろ。」

「………」

「まあ…アンタにゃ優しいじゃねーか。アイツも。」

「………」


「あの……道場でよく自慢してるぜ。アンタのこと。」


姉上のご飯は美味しいって。

朝稽古の後も、すっ飛んでアンタの所に帰って、たらふく飯食って、また昼から道場に来てるだろ。


「今日はあれ食べた〜これ旨かった〜って、あれだ、自慢しにくるぞ。うん。」


それに、他にも、別嬪だし優しいし、綺麗好きだし花も好きだし、



すんげ嬉しそうに、毎日いってるぞ。うん。



身振り手振りを交えながら、姉に話し掛けている土方を、俺は、邸の陰からじっと見ていた。



黙って話を聞くだけだった姉は、不意に口に手をやり、小さく噴き出した。



急に笑い出した姉に、手振りの仕草を空で留め、訳が判らないと言う風に固まる土方を、姉は上目遣いにチラと見る。


「あ…え?どうした?何が可笑しい?」


「十四郎さんも、優しい人なのね。」


その返事に、見る間に顔を赤くする土方に、尚も姉のクスクス笑いは止まらない。


「いや、俺はただ、総悟が言ったことを話してるだけで…。」



そーちゃんが、別嬪なんて言葉知ってるかしら。



そして姉は面差しを土方に向けた。

土方の顔は、熟れたトマト色になった。








「あねうえ。」



陰から俺は、身を出した。

「あ、そーちゃん、ごめんなさい。探しちゃった?」

ううん。すぐわかりました。


はい、と、手にしていた花束を渡す。


「わあ、素敵ね。有り難うそーちゃん。」


期待通りに優しい笑みを、姉は俺に向けてくれたけど。


さっき土方に向けた顔。

とてもとても嬉しそうで、

とてもとても綺麗な顔して、


でも全然知らない人みたいで、


姉の笑顔は大好きだった筈なのに、


見ていて俺は、とても寂しくなった。








「じゃ…俺、近藤さんとこ戻るわ。」


所在無げに、頭を掻きながら、姉と俺の間をすり抜けようとする土方の裾を掴んだ。


不審気に振り向く土方に、俺はにっこり笑って言った。



「土方さん。おなかすいたでしょ。朝ごはんたべてってくだせえ。」


ねえ、あねうえ。


姉の方を向くと、はにかんだ風に、俺と、土方を交互に見ていた。

頬を染めて。






最近使い出した卓袱台の上に、

まだまだ沢山残っている、寸胴鍋の中の、姉のカレー。


食欲そそる薫り。焦げ茶のルー。


「初めて作ったもので、分量判らなくて、こんなに一杯できちゃって、実はどうしようかと思っていたんです。」


十四郎さんは大人の人だから、大丈夫よね?


落ち着かなさ気に座っている土方。


姉は、俺には、消化に良いものをということで、うどんを作ってくれた。


「良く噛んで食べてね。」

はい、あねうえ。



「十四郎さんは、カレー食べたことありますか?」


大皿に盛り付けながら、姉が聞く。


「ああ…何度か近藤さんと食べに行ったことあるけど…まあ、旨いよな。」


「カレーは一晩寝かせると、一層美味しくなるんですって。」


ほんとに素敵な料理ね。十四郎さん。



夕べ俺に話したように、今また土方に話す姉。










その頃は、俺は馬鹿な餓鬼で、今一姉の味覚の事を、良く解ってなかった。

大抵の料理は普通に美味しく作られていて、
食事の前に、姉は自分の分だけに、大量の唐辛子をトッピングしていたから。


逆に、道場内では、姉の激辛嗜好は有名な話だった。
しかし、道場に来てまだ日の浅い、新参者の土方は、
姉の嗜好を、精々辛めが好きなんだろうとしか思ってなかった。

今回の俺の騒動も、俺が大人用のカレーを食い過ぎた位にしか、思ってなかったのだ。

だから、姉を諫める師範や近藤さんを、ちょっと言い過ぎなんじゃないかと、姉を気にしたんだろうけど。


はげますのは、なぐさめるのは、おれのやくめなのに。

だってふたりきりのきょうだいだから。



余計なことしやがって。


土方死ねコノヤロー。


おまえなんか
おまえなんかおまえなんか、


だいっきらい!!

大皿にご飯をよそって、その上にカレーをかける。

匙と、氷の入ったコップの水を添えて。

この日の朝食の支度は出来上がった。





いただきます。



三人一緒に手を合わせて、合掌する。


「昨日と、どう味が変わっているのかしら。ドキドキしちゃうわ。」



二口三口、カレーを口に運ぶ姉。


嚥下した彼女は、

又もや向日葵の用な笑みを俺に向けてきた。

続けて土方にも。

くそ勿体無い。



それを見て、土方も、匙ですくってカレーを頬張る。

もこもこ口を動かして、やがて呑み込んで。


「あ…うめぇ。」

思わず口から漏れた、姉にとっては、素朴にも最大の賞賛であろう奴の呟きに。
恥じらいつつも、天まで高く舞い上がって喜ぶ姉だった。


だから、全然気付いてなかった。

奴の変化に。




数秒後、

土方の顔色が緑色になり、
顔中の穴という穴から水分を吹き出し、

揉んどり打って、のたうち回り、悶え苦しみ、


「お゛め゛え゛さ゛ん゛、こ゛れ゛……」

土方が、半分残った皿を前に押し出し、ぐちょぐちょになった顔を姉に向けると、




「十四郎さん、お代わり?嬉しいわ。」


いっぱい食べて、お稽古頑張って下さいね。


ふぇ…。


飛びきりの笑顔を向けられ、

大皿に、更にてんこ盛りになったカレーが、目の前に差し出される。


瞳孔が開いて、朦朧の体を見せる土方。


奴の目にも、角が見えただろうか。




ふくしゅーはこれだけじゃ、おわりやせんぜ。

ひじかたさん。



俺は、うどんを完食すると、徐(おもむろ)に立ち上がり、

外へ出た。



道場へ向かう為に。










「総悟、もう大丈夫なのか?」

顔の腫れは、随分引いたな。

道場へ着くと、直ぐに近藤さんが気付いてくれて、竹刀片手に近寄ってきた。


ほら、じゃまもの土方がいなけりゃ、近藤さんといちばんなかがいいのは、おれなんでぃ。


「あれ、顔元に戻っちまってるのか。いかりやチョーさん見たかったのにな。」

他の門下生もやって来て、次々に俺の顔を触ってくる。

「…だめだこりゃなら、じきにきますぜぃ。」

瞳孔が、開いたチョーさんが。

どういう事だ?総悟?



俺は、首を傾げる近藤さん達に背を向け、道場を後にした。


次の目的地へと向かう為に。





落とし紙で、兜を折りながら時間を潰す。


暫くして、


道場の辺りが騒がしくなった。






「だ、誰だてめえは!!っつかチョーさん!?」

「近藤さん!!顔面真っ赤に腫らしたいかりやみたいな奴が、殴り込みに…って、お前もしかして…」


「おい、トシか?!お前までどうしたんだその顔!!」


近藤さんの叫び声。



そっと戸を開け、外を窺うと、


瞳孔開かせ鬼の形相のいかりや十四郎が、

皆の制止を振り切って、


裸足で、
まっしぐらに此方へ向かって来ていた。



俺が籠城している、

道場の厠へ。







「でろ!!ばかやろ!!ふざけんな総悟!!テメーはそこにゃもう用はねーだろ!?」


厠全体揺れるほど、土方は戸を叩いている。


やっぱりヘタレ土方は、

うちの厠を借りる事が出来なかったか。

あねうえのまえで、みえはって。

ええかっこしい。




土方の悲壮になってきた叫び声と、

益々激しさを増す戸への殴打の音を聞きながら、

俺は厠の落とし紙を全部使って、

奴さんや、兜を折り続けていた。










結局は、戸を蹴り外した土方から摘まみ出され、

外れた戸を近藤さんが支えて、

土方は大人として、つーか、ヒトとして最低限の面目を保った訳だったが。




「…近藤さん…ちょっと、なんかヤバい…いや何でも無い…いやちょっとなんか…」




数時間後、神妙な面持ちで近藤さんを見上げる奴の様子に、

奴が厠へ行く度、戸を支えていた近藤さんは、全ての事態を悟ったのだった。






「だからあトシ!!痔は一度患うとなかなか完治し辛い厄介な物なんだから!!」

「痔じゃねえ!!ちょっとばかり酷使しただけだ!!総悟と一緒にすな!!」

「馬鹿言ってないで、腹くくれ。」

師範のゴールドフィンガーにこの際任そうじゃないか。お前の尻の穴。

言い含める様に、諭す近藤さん。

「ちょ、待てよ!帯ほどくな下帯外すな!!」


つか、何でこんなに見物人いるんだよ!!



腹下しが取り敢えず治まった土方は、

近藤さんの部屋で、悪足掻きをしていた。

近藤さんの傍には、ポラギノール片手にスタンバっている師範もいる。


俺は、他の門下生達と、縁側からその一部始終を見物していた。

普段は無愛想で物騒なイメージの土方の、意外なと言うか、間抜けな一面が、皆物珍しかったのだろう。

今の奴の面じゃ、凄まれても笑えるだけだし。






いいきみだ。さっさとせんせいにつっこまれたらいいんだ。






「あの…十四郎さんは…」

背後から、又もや鈴を転がすような声。


朝方、食事が終わった途端に、裸足で飛び出されてしまったものだから…


姉の手には、土方の下駄。


そして、近藤さんの部屋で繰り広げられている惨事を目の当たりにし、

姉も全てを悟ったのだった。








「私のカレーのせいで、十四郎さんまで…そんな…」

茫然自失に姉は絶句し、辛く悲し気に眉根を寄せた。


「……すみません十四郎さん…せめて私が薬を突っ込みますわ。」



なんですと!?


俺は慌てた。

土方はもっと慌てていた。



「ばっ、馬鹿言え!!何でおめーさんがそんなこと…!!じゃ、判ったから、近藤さんで我慢する。近藤さんやってくれ!!」

「はあ?トシ。何でそうなる?先生で良いじゃん。」

「何でワシを厭がるんじゃ。失礼な。」

「あねうえに、こいつのきたねえけつさわらせてたまるかぃ!!おれがやりまさあ!!」

「総悟てめえは引っ込んでろ!もう近藤さんでいいから!つかおめーさん此処に居ンなよあんま見んなよ。」

「いやいやトシ、俺で良いってどういう意味?」








大騒ぎの末、それから三日間、土方は師範から薬を突っ込まれたらしい。

姉は再び、師範と近藤さんからこってり油を絞られた。


「いやあの…最初の一口は、旨かった。マジすげー旨かったから…」


そう取りなす土方の言葉も耳に入らない程に、


姉はすっかり落ち込んで、悄気てしまって、

以後二度と、カレーを作らなかった。




おれはあねうえのおとうとだから、おとなになれば、しりはじょうぶになりますから、またいっしょにカレーたべましょう。



そしてまた、あの笑顔を。


そう思っていたけど。



姉はいなくなってしまったから、

一口目だけは、とってもとっても美味しい、
幻のカレーの味を知る者は、

俺と、土方の野郎だけになった。








***************


「いやいや感激であります!!非番の日に隊長からお誘い受けるなんて!この神山もう隊長には、命でも尻でも何でも預けます。もうどうにでもして!!」

やたらテンションの高い神山さん。

沖田さんは適当にあしらっている。

僕らは、沖田さんからお誘いを受けて、神山さんと三人で、食事に向かう所だった。

「ぱっつぁん実はね。キャンペーン中で、三人一組で条件満たしたら、タダなんでさ。」

目の前を連れ立って歩く、私服の沖田さんと神山さんの姿は、何だか不思議な組み合わせだ。

でも。

「沖田さん…真撰組の他の方を誘ったら良かったんじゃ?山崎さんとか。」

「彼奴は張り込み中でね。」


「……土方さんは。」



沖田さんの表情が一瞬、酷く険しい其に変わる。



「奴は絶対厭。」


彼が、土方さんに対して常にドSモードなのは知っているが、
それとはまた少し違う反応に、
驚いて、戸惑っている僕の様子に気付いたのか、

顔を此方に向け、ニヤリと笑ってきた。

「…今は、まだ、ね。」





着いた所は、極々普通の定食屋さん。

僕たちは、三人並んでカウンターに座る。

「おばちゃーん。チャレンジカレー三つね。」

常連なのだろうか。慣れた感じで注文する沖田さん。

奥から、威勢の良い女性の返事が聞こえる。

やがて、それは運ばれて来た。

見た目は普通の、良くあるカレーだ。



いただきます。



三人一緒に手を合わせて、合掌する。



三人一緒に、二口三口、カレーを口に運ぶ。


…めっちゃ、旨い。


三人一緒に、顔を見合せる。


次の瞬間、とてつもない衝撃が、僕と神山さんを襲った。



僕らは、眼鏡を外して、

オバチャンが寄越してきたタオルで顔を葺きながら、超激辛カレーを口に運ぶ。

「新八くん…あたま、いたい…うまいけど。」

「そうっすね…幻聴聞こえてきそう…うまいけど。」

ああああ…でも何か蕩ける…うまいけど。



真ん中に座る沖田さんは、目は、真っ赤にしているが、比較的普通に食べている。

やっぱり姉さん譲りで、辛いのは平気なのかな。

「完食しねえと、タダになりやせんから、二人共頑張ってくだせえよ。」

汗と、涙を葺きながら、沖田さんは食べ続けている。

それを見ながら、さっき彼が厠にたった時、オバチャンから聞いた話を思い出す。



……初めてウチに食べに来た時、途中でポロポロ泣き出してね。

辛すぎたのかと思ったら、姉ちゃんのカレーの味に良く似てるってね。

姉ちゃんの方が、もっともっと美味しくて、もっともっと辛かったそうだけど…


「おーい二人共、手が止まってますぜぃ。明日の事は心配御無用でさ。」

モロナインもポラギノールもありやすから、新八、旦那に手当てしてもらいなせえ。

「たいちょお!ではわたくしめが痔を患った暁には、隊長自らの御手で手当てして頂けるのですか!?」

五月蝿い神山。お前は隈無な。


神山さんとのやり取りと、粗方食べ終えている沖田さんの様子を横目で窺う。

目をタオルで葺きながら。

沖田さん。

近眼は、近くの物は見えるんだから、

例え眼鏡を外してたって、

多分神山さんにも、

アンタの泣き顔、ちゃんと見えてるんですけどね。


多分神山さんも、

気付かない振りするでしょうけど。



「なあ、ぱっつぁん。」

はい?

鼻水を啜りながら、返事をする。

しかし本気で、明日の朝、厠に行くのが怖い。

…うまいけど。



「ここのカレー。姉ちゃんの味に良く似てるんでさ。」

姉ちゃんの方が、もっともっと美味しくて、もっともっと辛かったけどな。


そう言って彼は、

飛びきりの笑顔を僕に向けてきた。










「武州だよ四人集合!!」








*「みんなわらった」の佐藤さまより、私の日記の激辛カレーにより解脱する沖田の妄想より広げられた小説です。

私のバカ垂れ流しの妄想がまさか人様の方で小説という形で開花して、感激の極みです。
これからも訳の分からない妄想に励もうと思います。

いただきまして、本当にありがとうございました。

ご馳走さまです。


あきゅろす。
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