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万事屋銀ちゃん便所立てこもり事件



春うらら、花は咲き緑は萌えるこの季節のある日。

 志村新八は、万事屋銀ちゃんのトイレ内にこもり、便座の冷たさを嘆いていた。
 小さなはめ込みの窓から差し込む昼下がりの陽光が、後ろ頭を暖めてくれていたが、そんなことは彼にとってどうでもよいことだった。彼は今、早急に解決すべき問題を抱えているのだ。

(なんで……こんな昼間っから、アンアン喘ぎ声が聞かなきゃならないんだ。
 ああああああああダメだ! 意識したら負けだ、落ち着けクールになれ志村新八!
 そうだ特にお前だ、お前に言ってるんだ新八ジュニア!そんなに興奮してなんになるんだ、確かにお前には僕がふがいないばっかりに未だに実戦の機会がないけれども!
 もし、ここでお前が先走って自爆してしまったら、僕もそれはもうスッキリだろうけど、これから先、このカバーが無いむき出しの便座を見る度に思い出さなくちゃいけないんだ。あぁ、あの時、勢い余ってあの辺りにかけちゃったんだよな、カバーついてないからふき取るだけで済んで良かった……、みたいな。
 ダメだ。重い、重すぎる。そんな十字架は背負いたくない)

 そう、新八ジュニアこと股間にぶら下がったそれは、今現在、ピサの斜塔並みの角度で立ち上がっていた。いわゆる勃起である。他人の家で、しかも職場でもあるここで、新八の若い雄が何故か怒張してしまったのである。

 その事件は、十五分ほど前に起こった。
 今日も今日とて仕事もなく、万事屋三人でしょっぱい昼食を済ませた後、神楽と銀時はそれぞれくだらない理由をつけて出掛けてしまった。ひとり残された新八は貧乏性を発揮して、誰も居ないのを良い事に居間を掃除をしてしまおうと考えた。そこで、ふとテレビ台の下に設置されたDVDプレイヤーの電源が入りっぱなしなのを見つけたのだ。どうやら、停止状態になっているらしい。
 それを好奇心から再生した。
 いきなり、薄いモザイクのかかった女性の局部がクローズアップされた画面が現れた時、新八は声にならない衝撃にリモコンを手からすべらせた。そして新八の若い猛りがもう辛抱たまりませんと訴えかけてきた時、ふらりとあの男が帰ってきたのだ。
 その悪夢のような瞬間を思い出して、新八は嘆息する。

(いつもはなかなか帰って来やしないのに……今日に限ってどうしてこんな時間に帰ってくるんだ銀さぁあああん!
 毎日見てた昼ドラは一昨日
ナ終回を迎えたじゃないか…! 神楽ちゃんだって、昼ご飯食べたっきり帰って来ないし。
 エロセンサーでもついてんのか。あの天パがセンサーなのか、近くでエロDVDが再生されると逆立つのか!?
 ていうか、エロDVD入れっぱなしだったのは、どう考えてもあの男だろ。何やってんだ、銀さん。
 神楽ちゃんが寝てから、居間でセンズリ扱いてるわけ? どんだけ勇者ですか、神楽ちゃんと襖一枚しか壁が無いじゃないですか。し、しかも、あのAV、調教モノだったんですけど。女の人が手錠はめられちゃって、よつんばいだったんですけど。マウストゥ性器だったんですけど。なんで、あんな山場っていうか佳境っていうかイイ所で再生止めてんだ。あっ、あそこで満足したのか? 
 ううぅうわぁああああああ!し、鎮まれビークール!新八ジュニアァアアアア!!!!
 よ……よし、良く持ちこたえた。今まで鍛えてきた甲斐があった。やり過ぎると本番で役に立たないとか言われて、最近控え気味だったけど、結果オーライだろコレ。持久力っていうんですかね? 人生、涙を飲んで堪えねばならん時がある。すまん、ここは抑えてくれ、いつか一緒に活躍しよう。僕はお前の輝かしい未来を信じてるぞ!)
 胸中に渦巻く疑問を高速で処理しながら、新八は股間との対話を進めていた。交渉は八割方の成功をおさめていた。あとは時間が解決してくれるという段階まで持ち込んだのは、彼の誇る忍耐強さゆえだろう。
 しかし。
 新八が安堵したその時、居間兼事務所から刺客がやってきた。

「……は、ぁあああんッ!もうダメぇ、や…あァ」
「やっべ、音量デカいわコレ」

 新八は動揺した。
 後半の聞き慣れただらしない声はともかく、問題はその前だ。感極まったような甲高さ、媚を含んだような甘さを兼ね備えた女性の声。刺激に耐えられませんでした、というような荒い呼吸がポイントだ。
 間違いない、いわゆるオーガズムに達した時のそれだろう。

(な、なんだって…ま、まだエロDVD鑑賞を続けてたのか銀さんンンン! あの、掃除機握ったまま、かぶりつきでAV見てる僕と鉢合わせた気まずい感じは?
 一応、アンタも「……あー、なんかごめん?」とか言ってたじゃん!僕も一応合わせて「…いえ、なんか僕こそすみません」とか言ったじゃん!掃除機放り出してトイレに避難した僕の立場は?
 なんとか居間に戻っても、アレか、銀さんがエロDV
Dにかぶりついてんの? あの気だるい感じを無理矢理に演出してソファにふんぞり返りながらリモコン握ってる感じか? 目だけ血走ってる感じか? え、まさか…?)

 新八はうっかり、あの銀髪天パの男が自慰に勤しんでいる場面を想像してしまった。
 常日頃から、深夜布団や風呂の中で、ファンであるアイドルのあれこれな場面を詳細に空想しているため、無駄に鍛えられていた妄想スキルが勝手に発動してしまったのだ。

 着物や下着は脱がないまま、イチモツだけを根元から取り出して、利き手で扱いている姿。左手には数枚のティッシュを持っているだろう。先日、銭湯で目撃しドン引きした、先端が赤く常に剥けた状態の男根。しどけなく開いた口元。せわしなく動くだろう手指と、
尿道からつぷりと噴出す透明な汁。欲を確かめるように、人差し指の腹でそれをなぞり、亀頭に塗り付ける動き。
 そこまで詳細な妄想を繰り広げてしまった時、股間が和平交渉を破棄して急激な主張を始めた。それは絶望的なまでの膨張だった。

 新八はごくりと喉を鳴らす。

 もはや、これは引き返せないのではないか。皮付きバナナくらいの堅さを見せる、陰茎を見下ろすと、先端の窪みからぬるつく体液が滲み出ていた。
 そっと指を添えると、握り込む。慣れた行為への期待が先走って、内腿が震えた。新八はちょっと泣きたいような気持ちになりながら、指を動かし始める。

「はっ…」

 横隔膜の引きつった短い呼吸が耳につき、背筋に寒気に似た快感が走った。
 明るい陽光が背徳感を助長して、たまらず目を閉じると、脳裏に鮮やかに蘇ったのは、画面の中で喘ぐ女性。握る指先に、力がこもる。新八の男根は酷く熱く、睾丸が張り詰めているのを感じた。
 瞼裏ではさっき見たばかりの映像がめぐる。例えば、いやらしく震える男性器型玩具。ふるふると揺れる乳房、その乳首は堅くなっていた。ローションか、愛液か、精液か、粘り気のある液体を伝わせている、節くれだった男の指。そして、太くて色黒のペニス。
 モザイク越しのそれが、突然、リアルなそれと入れ替わる。
 色白なのに、亀頭だけは赤くエラの張った形の、それ。添えられた指先も白い、ゆっくりと扱き始めた。妄想の続きが自動再生され始めて、新八は本格的に涙目になる。
 その、普段ともに過ごすことの多い男の媚態に興奮している自分がいた。
 あの毎日ジャンプのページを繰る指で、あの木
刀を握り締める指でひたすらに快楽を追って。あのだらしなく洋菓子を食べる唇を、あの侍の魂がうずくようなまっすぐな道理を説く唇を薄く開いては吐息で喘ぎ。あの、初めて会った時からこっそり憧れて追いかけてきた大きな背中が、射精で震える姿を、想像してしまう。
 それにたまらなく煽られた。

「うっ」

 気付くと、新八は精を放っていた。せわしなく動いた指に、新八の息子はひりひりとした痛みを訴えている。腰が痙攣し射精を悟った瞬間、トイレットペーパーに手を伸ばしたが、片手ではいかんともしがたく、結局は手のひらと床へ種付けしてしまった。
 余韻か、ため息か、自分でも判別出来ない息が漏れた。
 いつもの節約を忘れて、ぐるぐると紙を巻き取り手のひらの生暖かい液体を拭う。達成感と疲れに、便器の蓋に背中を預けると春光が眼を焼いた。

(銀さん、ごめんなさい……アンタ、なんか色々エロかったですけど、これって何なんですかね。気の迷いですよね。ホントもう)

 死にたいような気分、というのは、こういう気持ちをいうのかもしれないと思った。






「銀ちゃーん、新八まだ便所アルか? 糞っぽい晩御飯なんて嫌アル」
「え、アイツまだ便所いんのかよ。オイオイ、どんだけ純情少年ですか。パパッと出してすっきりすりゃいいのによー」
「きっと、大物ヨ。新八は大腸に潜む巨大な敵と戦ってるアル。ちょっと、ヤクルト差し入れて来るカ」
「ちょちょちょ、待ちなさいって。あーアレだ、男はどんな時もひとりで戦うもんなんだよ。新八ならやれるって、やればできる子だから。……しょーがねぇな、先に晩飯作っとくか」

 実は袴にも種付けしてしまっていた新八がその現実的な恥ずかしさと、オカズにしてしまった上司と顔を合わせる妄想的な恥ずかしさから、神楽帰宅後もトイレにこもっていた。
 正確に言うと、その日神楽が寝静まり、そんなにハードめなAVがショックだったのかと若干の反省をした銀時が、着替えと食事をトイレの前にそっとお供えするまで新八はトイレの住人となったのであった。





*掌の野々宮たまに頂いた、おちんちん占い小説です。
全くまって私のツボを心得ていらっしゃる。ヒヒヒ。

しかし新八の一人上手というのも珍しいので先陣を切ったいらっしゃる。ありがとうございます。
しかし頂いてからうpにまで時間がかかり申し訳ないです。


あきゅろす。
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