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このたびななななんと10万打を迎えることができました…!これも全て、こんな辺境サイトに来てくださっている皆さまのおかげです。更新もできていないというのに…本当にありがとうございます(´;ω;`)

そんな感謝の気持ちを表して、このページの下にガイルク小説を…。本当は主従の日にあげたかったのですがもう1ヶ月以上前げふんごふん!
このような残念なサイトではありますが、まだまだガイルク愛に満ちあふれておりますので、のんびりお付き合いいただければ幸いでございます。この度は本当にありがとうございます!

2012.5.16 碧朱堂まめら



















ガイ・セシル。
この名前は特別な名前。
復讐のために、仇を打つために、
必要な名前。



「ガイ」
「どうかなされましたか、ルーク様」

太陽も沈み音素灯の光だけが部屋を満たす時間、ドアの付近に待機していた俺にかけられた幼い、しかし抑圧的な声に答える。使用人らしくかしこまって、頭を下げて、そして薄っぺらい笑顔をはりつけた。必要があれば膝だろうが額だろうが地面に擦り付けよう。そうして従順なふりをして、笑顔の仮面の下は真っ黒なもので覆われている。懐に忍ばせたナイフは帯刀が許されない俺が持つにはふさわしくないとされるもの。だが関係ない。ばれなければいい。俺が必要だと判断するその時まで忍ばせておければそれでいい。その時になれば同じく忍ばせた名前とともに振り上げかざしてその身に憎き赤を纏わせるのだ。その時の快感を思えばどんなことだろうとできた。


「今日はもういい、下がれ」
「かしこまりました。ご用があればまたお呼びくださいませ」


ルーク様の部屋から出て薄暗い廊下を静かに歩く。仮面をはずすのは庭師として雇われているペールと共に住む小屋に戻ってからだ。それまではまだ「ガイ・セシル」でいなければならない。すれ違うなにも知らないメイドたちに優しく甘い言葉をかけ、偉そうな騎士様に頭を下げる。それは屋敷内での立場を確実なものにするために必要な術だとすでに理解していた。
暗闇に包まれた庭へと足を運ぶ。外れにある小屋に戻ったその瞬間、仮面が剥がれ落ちた。


「……は、ははっ」
「…ガイ」

思わずもらした黒い嘲笑に、部屋で花の苗の手入れをしていた老人に咎めるような小さな声で"名"を呼ばれる。

「ああわかっているさペール!こんな顔や声をさらすのはここだけだ…計画が台無しになるようなことを俺がするわけないだろう」

ああ滑稽だ。こんな怪しい人間を使用人として迎え入れたファブレも俺の甘い言葉に頬を染めて喜ぶメイドたちも俺が下の人間だと疑いもしない騎士たちも!そして、「ガイ・セシル」も。
これは役だ、使用人ガイ・セシル!なんて滑稽な役だろう!媚びへつらってファブレへの忠誠心満載の使用人。役の仮面が剥がれればそこにある真っ黒な顔は狂気に染まった復讐者のそれだ。こんなに真っ黒なものが隠れているというのに、この喜劇の役者は誰も気づいていない。この喜劇が最高の悲劇に変わるその日まで、おそらく誰も気づかない。



「…さあ、明日も楽しい劇のはじまりだ」









それから数日後、ルーク様が誘拐された。
帰ってきたルーク様は今までの記憶が一切なく、赤ん坊そのものだった。屋敷に蔓延る悲劇の気配。違うだろう、まだ悲劇でもなんでもない。記憶があろうがなかろうがこの存在はここにいるじゃないか。死んでなどいない。何がおかわいそうにだ、誰がかわいそうなんだ。俺の家族はもう誰一人帰ってこられないのに、帰ってきたこいつがかわいそうなものか!だがおかわいそうな息子の姿を見た公爵夫人は嘆き倒れ、公爵はその姿など見たくもないとでも言うかのように目を背け続ける。これじゃ、俺が
作り上げる予定の悲劇が予定通りの効果を示さないかもしれない。それは大きな問題だった。俺は、公爵に俺以上の絶望を味わわせてやらねばならない。そうじゃなければ、俺は、何のためにこんなところでこんな役を演じているんだ。


日常は目まぐるしく展開していく。
俺は今まで通りルーク坊っちゃん付きの使用人として仕事をするよう命をうけた。変わったのは、泣いてぐずる坊っちゃんの部屋に行きやすいよう、無駄に広い庭の隅にある小屋から屋敷の中の使用人部屋をあてがわれたことと、俺の腰に付けられた剣だ。俺の剣の腕がそこそこたつことを知った公爵夫人が、ルーク坊っちゃんを守るためにと許しをくれたのだ。白光騎士団のやつらからの目は痛いが、どうどうと帯刀が許されたことも、屋敷の中に深く入り込んだ部屋も俺にとっては好都合だ。総合的に考えれば、ルーク坊っちゃんの誘拐は俺にはプラスに動いたのではないか、そう思った。


だがそれは甘い考えだったとすぐに思い知らされた。

本当に赤ん坊同然となった坊っちゃんは世話がやけるなんてレベルじゃなかった。歩くことも一人で食事をすることもできない。危なっかしくて目を離すと何をしでかすか分かったもんじゃないし、言葉すら忘れちまってるから注意したところで何の意味もなさなかった。かといって今までの使用人の仕事がなくなるわけでもない。朝から晩まで働きどおし、疲労困憊でベッドに沈めば坊っちゃんの夜泣きで叩き起こされる。赤ん坊なんて世話したこともない俺がなんでこんな仕事をしなくちゃいけないんだと呻いて周りを呪うが、あんな図体のでかい赤ん坊はメイドの手にあまるのも確かだった。泣いて暴れられると手加減なんてものも忘れてるもんだから俺でも押さえるのに苦戦するのだ。そうして悪戦苦闘しながらルークの世話をするうちに、気づけば使用人という仕事を越えて教育係のような役割まで担うことになっていた。

「ルークそれは手で掴むもんじゃない!フォークの使い方昨日教えただろってあああああもうダメだって言っただろうが!」
「う?」
「う?じゃねーよ…ったく…」

初めは敬語で接していたが、あまりに通じないものだから二人きりの時は素のままで話すようになってしまった。公爵にバレたら首がとぶかもしれないと考えて直そうともしたが、敬語で話し始めたとたん不機嫌な声で泣くルークにこちらはほとほと疲れたのだ。これぐらいで文句を言うのなら代わってみろよと言いたい。だが、相変わらず公爵はこの部屋に近づこうとすらしない。親のくせに、全て俺に押し付けてそれでおしまい。なんだそれは。親と過ごした記憶はもうおぼろげな俺ですら、違う、そうじゃないと、そう思うのに。

うぜぇ…と小さくこぼすとうぜぇ?と返してくる。ダメだってなんでこんな汚い言葉はすぐに覚えるんだよ。
小さく首を傾げて真っ直ぐで大きな瞳でこちらを見つめるルークに、ゆっくりと手を伸ばす。細くて白い首にまとわりついた朱の髪を己の指に絡めて払う。散ったそれは血の色とは似ても似つかなくて、酷く苦しくなった。力をこめれば簡単に折れてしまいそうなそれに触れることに、よく分からない、心臓が飛び出しそうな吐き気を感じて。そこに伴う感情に蓋をして、くしゃくしゃと朱の頭をなでた。嬉しそうに笑うその姿に泣きたくなった。



真っ黒な復讐で頭を満たしていた日々など遥か昔のように感じるようになった。真っ白になって帰ってきたルークは、俺の頭の中をその白でもって蹂躙していったのだ。

簡単に割りきれるものじゃない。諦められることでもない。ただ、真っ白なルークのまっすぐな言葉や行動はいつも眩しくて、眩しすぎて、俺は仮面を外すことができなくなってしまったのだ。これを外してしまったらあまりの眩しさに目が潰れてしまう。そんなことになったら復讐どころじゃないから、だから。それだけだ。


「なあルーク…賭けを、しよう」


お前と賭けを。お前が、その輝きを陰らせたその時は、俺がこの仮面を捨て去って悲劇を始めよう。









「賭け?ガイ、賭けって何だよ」
「そう、これはな…」





お前の口から紡がれるこの名前を愛しく思う、この感情の答えはまだ出ないけれど。









ガイ・セシル。
この名前は特別な名前。
お前の側に居続けるために、
必要な名前。
必要な、役。












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