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聖焔祭:忘れて、でも、忘れないで
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夜が怖くて怖くて。
恐怖で気が狂いそうだった。
自分には時間がない。
そうわかりながら仲間に内緒にすると決めたのに。
はやく朝になればいい。
そうしたら眩しい太陽の下、いつものように笑ってやれるのに。


忘れて、でも、忘れないで


「大丈夫ですか」
きゃあきゃあと女性たちが朝市の露店に駆け出す中、ぼんやりとそれを眺めていたルークは、背後からの声に振り向かずに頷く。
「まだ、大丈夫」
「…。無理はしないで下さい」
「うん、分かってるよ」
全てが終わるその時まで、自分は生きなければならない。
時折、戦闘で疲労した際に体が透ける時がある。
だが生活には今の所支障がない。
もうすぐ。
もうすぐなんだと体が否応なしに教えてくれる。
震える手を拳にかえる。
大丈夫、大丈夫。
まだ…笑える。





「ジェイド!ルーク!あっちの店に行かないか。ミラクルグミが安売りしてる」
ヒュッと重い空気を引き裂くように強烈な光があたりに広がった。
朝日に煌めくのはガイの金色の髪。
太陽が凝縮したかのように眩しい彼は、爽やかな笑みを浮かべてすぐ近くの露店を指で示した。
どうやら一通り市場を見てきたらしい、こめかみに汗が浮かんでいる。
彼がきただけで不安な心が深淵の暗闇から浮上した事に内心苦笑した。
依存、している。
「おいガイ、目当てはミラクルグミだけか?」
ニヤリと揶揄するように笑ってやると、ガイも笑いかえしてきた。
「ルークにはバレバレだな。珍しい音機…」
「おやぁ、ガイ、まさか貴方がエロ本目当てだったなんてねぇ」
遮るようにしてジェイドが大声を出すと、遠巻きにこちらを見ていたガイのファンであろう女性たちは一斉に「きゃー不潔!」「ただのエロおやじだったなんて」等と好き勝手に喚きはじめた。
「ブッ…!」
その台詞に思わず噴き出す。
エロおやじっ。
ガイはまだ21なのに。
やばいっ…腹が、腹が痛い。
「あはははっ…ガイはスケベ魔王だもんな?」
ジェイドが悪乗りするなんて珍しい。
腹を抱えて笑うとガイが顔を真っ赤に染めてジェイドに怒鳴る。
「なんで俺がエロ本を?!」
「いやぁ…勘が冴えて困ります」
なんてさらにトボけたジェイドが、ちらりと俺に視線をよこし。
そうして微笑んだ。
あぁ、気を使ってくれたんだ。
そう分かったら心がほんのり温かくなった。
本当に、大好きだ。
皆…好きすぎて、困る。








「寝れないのか」
ドアを開き、部屋に姿を現したガイは穏やかな声で疑問…というよりは確認してくる。
「ガイにはばればれか」
「飲むか?ホットミルク」
「っ…ありがと」
二つ分のホットミルクがあることに苦笑する。
不眠症に陥っていることに随分前からばれていたのかもしれない。
飲んだ後、さぁ寝ようという時になって暗闇の中もぞもぞとガイが一緒の布団に潜り込んできた。
「が、ガイ…?」
「今夜は俺に甘えとけ」
「甘えろって言われても」
低い声で耳元で笑われ、ひくんと体が震えた。
頭を撫でられたところが熱い。
まだ触っていて欲しいと思ってしまうなんて欲張りなんだろうか。
「子供のうちは甘えるのが仕事だろ。そうして自分が大人になれば…それを糧に立派な人になればいい」
大人。
自分には縁がないもの。
昔の俺は、大人になればあの屋敷から自由になると思っていたのに。
それが覆るなんて…思いもよらなかった。「うん…」
そうだなと元気よく言えたらよかったのに、出てきた声は覇気がなかった。
「お前何か悩んでるだろ」
「はぁ?何言ってるんだよ」
笑い飛ばしたかったがガイの真剣な瞳に息をのむ。
「言いたくないならいいけど…ちゃんと息抜きしろよ」
「ん…ありがとうな、ガイ」
言えない。
こればかりはガイには。
ガイだけには。
本当に…俺なんかの為に、心をくだいてくれて、ありがとう。



気がつけばガイの寝息が聞こえてきた。
疲れてたんだろう。
今朝も早くから音機関や朝市に夢中だったし。
ぼんやりと月夜に照らされた寝顔は可愛い。
男に可愛いなんて変だけどそう感じてしまったのだから仕方がない。
ガイの胸に頬を擦り寄せる。
微かに香るガイの香水に安心を覚えた。
「俺が死んでも愛だけが残ればいいのに」
そうしてそれがガイを守るものになればいいのだ。
死んだら何もできない。
俺が消えたらこいつも…皆も。
助けてやれなくなる。
俺が死んだら優しすぎるから悲しんでくれるだろう。
イオンの最期の時は皆で悲しんで…そしてよく頑張ったと褒めたら…イオンは小さく微笑んだ。
一生忘れられない存在として胸に刻まれた。
だけど自分は多くの人の命を奪ってしまった存在で。
皆の記憶にとどまるべき資格がない。
だから。
「ガイも皆も…俺なんかの事で頭を悩ませないでいいのに。俺の事なんか忘れてしまえばいいんだ」
そうしたら悩む事も減るだろうに。
大好きだからこそ。

「俺の事…忘れて。忘れていいから」
頬を滑り落ちた涙に気づかない振りをして。
今日も静かに頬を濡らす。





「嘘つき」
やっとホットミルクにいれた睡眠薬が効いた。
そう思ってガイはホッと安堵し、泣き疲れて寝てしまったルークを抱きしめてやる。
徐々に冷え切った体が温かくなりはじめた。
俺が寝てしまったと思ったのだろうこの子は感情を素直に吐露して話し掛けてきた。
忘れて…なんて。
「忘れられるはずがないだろう」
やはりルークは死ぬのか。
嫌な予感はあたるもの。
何度話しの途中で抱きしめてやりたい衝動に駆られただろう。
幾度となく眠れぬ日々を過ごしてきたのかわかっていたはずなのに。
この子の闇を…罪も…一緒に背負っていきたい。
そう思うことさえ許してくれないのか。
「忘れてなどやるもんか」



忘れて、でも、忘れないで


お前の心の悲鳴は、そう叫んでいるのに。




END
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企画に参加させて下さりありがとうございます。まずはお礼を言わせてください^^*このような素敵な企画に参加出来る事程幸せな事はありませんVvガイとルークにはいちゃこらラブラブさせるのが好きですが、たまにはゲーム本編の現実の厳しさも感じてほしくて書いちゃいました。
この企画に出会えてよかったです^^*
ありがとうございました。
千秋 拝


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