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体温、温度差 1

〜Side:Zelos〜

昨晩の情事の後。
頬を膨らませ、真っ赤にしながらもクラトスは口答えしてきた。
そのときのマイハニーは、ヤバいくらいに可愛かったなァ。
一戦後なのに勃っちまったぜぃ。

『幽霊なぞ、私は信じない』

『ならさぁ、試してみようよ』

『……フ、いいだろう』

案の定、煽ったら乗ってきた。
変なトコロで負けず嫌いだからね。
また、そこが可愛いんだけど。

そんなわけで、連れてきた。
いわゆる、心霊スポットなる場所だ。
勿論、周囲は真っ暗闇な深夜。
白い廃屋だけが、周りの黒から取り残されている。

「……何だ、ここは?」

「今は廃墟だけど、もとは恋人たちの休憩場所。いわゆるラブホってヤツ」

「………」

「昔、客として訪れていたカップルが情死したらしく、以降は閉鎖になったってワケ」

充分すぎる要素が満載でしょ。
ハニーが怖がって抱きついてくれば良し。
俺様的には愛が深まればイイな〜、と目論み中。

すると、寄せられたのは手のひら。
クラトスの右手。

「……お、お前が迷子になったら、私が迷惑を被るだけだからな」

本当は怖いクセに。
図星を突くと、ハニーは怒っちゃうから言わないの。
握り返しながら、廃墟に足を踏み入れる。

「屋上に行ったら、戻ろな」

「……う、うむ」

右手には懐中電灯。
左手にはクラトス。

ただの廃材を踏んでしまうだけで、音が反響する。
それに身を強ばらせるアンタは、猛烈に可愛いよ。



◇◇◇◇◇



〜Side:Kratos〜

──正直、幽霊が怖い。

なんて、絶対に言わぬ。
ゼロスに笑われるからだ。
四千を生き長らえ、不可解な現象が恐ろしいなど、我ながら情けない。

「階段は……こっちのほうかな?」

「おそらく、は」

暗闇は、視力を無力にする。
手のひら越しに伝わるゼロスの体温だけが、漆黒の中の道標だった。

「……!?」

足を、とられた。
掴まれたかのような感覚は、いかに私が怯えているかを如実に反映させた結果なのだろう。
その対象物を目視できるわけもない。
顔面から、転倒してしまった。
ゼロスの手から、解されてしまう。
失う温もりは、一瞬のとき、私の孤独心を増大させた。

「クラトス、大丈夫!?」

「心配、ない……」

伸ばされた手を掴んだ。
埃っぽい顔を払う余裕もない。
また、潤んだ双眸では視力が劣っていた。
ぼんやりとした視界に広がる、ぼんやりとした五指。
大好きなゼロスの、指先。
でも、泣いてるとは言い出せない。
ただ、温かみを求め、それを掴んだ。

今の私では、震えた声しか出ないだろう。
喋りたくはなかった。
威勢を張った以上、私の自尊心は折れることを許さなかった。
ゼロスもそれを知っているだろうが、指摘しないだけ。
だから、歩みを再会させてからも、ずっと無言だった。

私の手を引いて、さらに奥に進んでいく。
懐中電灯の円形の光源のみが、妙に映えていた。


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