Inferno crimson 5 黒い拳が天使の頭部を粉砕しようと、肉迫する。 身を屈めた回避と同時に、クラトスは間合いを確保する。 明滅する蒼翼を奮い、危険域から脱した。 かつてのそこに叩き付けられる、死神の掌底。 重量域を孕んだ掌が、解放される。 爪が虚空を抉り出し、接触した景色が歪んだ。 空間が無音に蝕まれ、そして爆発的。 闇が弾けた。 反動により大気は歪み、激しく振動していった。 重量の余波が、クラトスの深手を攻め立てる。 傷口を揺さぶり、血を溢れ出させた。 ──ここで私が倒れてしまったら、意味がない。 弱らせる、なんて生半可な意志では、ゼロスを救えない。 殺す覚悟で、挑まなければならない。 クラトスは愛剣の柄を、握り締め直した。 躊躇を捨て、意を決する。 すべては、愛する者たちのため。 「ロイド、許せ……!」 自分のため、ゼロスのため。 そして、『彼』のため。 クラトスは、愛剣を振るった。 剣も火炎を増し、主の意志に応える。 闇に、炎の軌道が一際映える。 尽力して柄を握り、クラトスは突進していく。 渾身の力で、漆黒の魔獣に剣撃を放つ。 蒼の残光に、炎の旋風が巻き起こる。 炎剣は、死神の胸部に突き刺さった。 肋骨を裂き、厚い胸板を貫通していた。 炎の朱と、血の朱が散華と化す。 すぐさま、クラトスは愛剣から手を離す。 怒号の哮吼。 激痛により、死神は絶叫し、暴れる。 荒れ狂う爪が振り乱され、翼は無意味に空を裂き乱す。 クラトスは身を屈めて、それらをかいくぐった。 そして、死神の懐に入り込んだ。 天使の脚が放たれる。 宙返りの最中、片足で愛剣の鍔を蹴った。 その反動で、さらに剣が深く埋没する。 傷口が抉れる。 死神が吠える。 魔獣な横隔膜の上下により、滝のように黒血が増す。 死神はがむしゃらに全身で暴れる。 しかし、その爪で天使を捉えることは叶わない。 クラトスは、すでに間合いから離脱していた。 後退の最中、彼は大気に呼び掛ける。 いや、待機させていた力を解いた。 大気が渦巻き、電子の系列が変じる。 今、破壊の召喚が行使される。 「我が魔剣に集え、神の雷」 クラトスは、左腕を天へ掲げた。 その腕に、蒼い電流が這う。 天使の足下を中央とし、広大な魔法陣が形成され、具現する。 召喚の根源は、天空。 暗雲を裂いたのは、蒼い閃光。 迸ったのは、蒼雷。 生じたのは、凄まじい電圧の落雷。 蒼雷は破壊を秘め、電子の道を完走した。 目標は、死神。 いや、フランヴェルジュだ。 蒼の雷撃は、死神に食らいついた。 獣の哮吼すら、雷音にかき消されるほど。 蒼色の閃光に、クラトスの視力は激しく奪われる。 破壊優先のため、発動者の安全へ考慮はない。 しかし、怯んでいる暇(いとま)はない。 『神の雷』と言えど、所詮は高電圧の雷。 死神を殺れるはすがない。 クラトスは、さらなる連撃を追加する。 天使の左腕が纏うは、蒼雷から蒼光へと変じた。 五指が開かれると、その蒼光は呼応する。 落雷を生み出した雲海は、天使の命により、再度の破壊を降らせた。 具現したのは、神聖なる光槍。 五本のそれは、邪悪を浄化する刃として、一斉に死神へ襲いかかる。 それを迎撃するのは、対称者。 血まみれの槍が、光槍たちを迎え撃つ。 互いが衝突し、相殺される。 応酬は、過度の力の爆発。 眩い明滅と、爆風が巻き起こる。 NEXT [グループ][ナビ] |