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酷く苛立っていた。
まるで体の芯からじわりと熱が溶け出すような感覚が身を包む。
黒革で覆われた車内にひとり、ペリエに口を付けていた。月の出ない夜はぽつりぽつりと点在する街灯のみが明かりをさすが、流れるその数も減っていく
車は屋敷の中のロータリーを回り、重厚な扉の前に自分を下ろした。
物音一つしない屋敷の中を静かに歩くと深紅の柔らかい絨毯が足音を吸収する。
帰りは、明日だといってあったので迎えはない。(あの老いぼれがそう知らせたのだが)
自室に向かうまでに外套は腕にかかり、首まで絞めていたタイや袖のカフスは一緒くたにポケットの中だ。詰めた息を一気に吐き出すのと同時に勢いよく扉を押し開けた。
自室の扉を開けると、正面のテラスには結露のついた硝子越しに白い影が一つ浮かんでいて、思わず舌打ちをした。
大股で手すりにもたれる背中に近寄る。所々重力に逆らう肩まで届いた銀髪が揺れはしたが、振り返りはしなかったことにまた体温が上がった気がする。
「おいカス」
いつ戻ってきやがった。そう口が言う前に、目を合わせもせずにこちらを振り向いたスクアーロに唇を押し当てられる。
ぬるり、とした感触と鼻を突く薬品の臭いに盛大に眉を顰めた
そのまま肩に頭をすり寄せて静かに身を寄せる奴に何もいえずに無機質な色をした髪にさらりと指を通して持ち上げると、ふわりと昔とは違うシャンプーの匂いと、日光の匂いがした。やり場のない憤りと共に伸びた髪を掴んで自らからはなし、首を左手で軽く絞めた。
「ザンザ、ス」
掠れた声で名を呼び、絞めた左手を引っかく手も、締めた首さえもひんやりとしていた。
(しかしその中で髪より幾分色の濃い目だけは熱を持って潤んでいて)
ひゅ、と喉を鳴らし必死に息を吸おうとする薄い唇をみて、このまま溺れてしまえばいいのに。と思った

このまま溺れて
誰にも触れさせずに


ぐ、と一瞬更に力を込めたところで馬鹿馬鹿しくなり手を離すと、いきなり肺に入った冷たい空気に目の前で銀の目が涙を一筋流した。
「う"ぉおおい!な、にしやがる手前!」
「うるせえ」
淡く上気した頬を軽く殴った。それでもかなり冷たいと感じるのは、こいつがそこまで冷えているからなのか俺が熱いだけなのか。
「入るぞ」
そう言いながら奴の焼けるように冷たい左手を軋むくらい強く握って、力ずくで暖かい室内に放り込んだ。くぐもった声を出し顔面から着地した奴に、見苦しいといいながら浴室に足を運べば、やはりというか何というか湯が張ってあった。
盛大にため息をつく俺の背後で、褒めろと言わんばかりの馬鹿を浴室に押し込み、棚の中のシャンプーボトルを起きあがってきた顔面に投げつけてやった。

こんなきもちは知らない




顔にかかった朝日で目が覚めた。微かに開いたカーテンの間から射し込む光は、裸の胸元で寝息をたてる非常識なほど長い髪の男を避け自分の顔面にかかっている。
銀の髪がかかる腰を抱え込むようにして伸ばした左腕をそっとどかして、カーテンを閉める為に柔らかなシーツから出る。暦の上では春ではあるがまだ肌寒い空気が肌を撫でた。ついでに、本日の予定を確認すると、今日は昼過ぎにあの底を見せない笑いをするようになった餓鬼と会談をする以外特に予定は入ってはいない。二度寝をすることを決めてアンダーを履かないまま脱ぎ捨てられたスラックスに足を通し、硬いベッドに足をかける。その際に黒を基調としたスクアーロの部屋の、妙に上品なキャビネットの上にいびつな形をした花瓶と、そこに生けられた椿と桜の花に
またこいつは何も考えずに贈り物を受け取ったのかと眉を顰めた。
餓鬼独特の焦燥に駆られた、一方的な独占欲の塊だった昔の俺ならスクアーロを殴り起こして、執拗に責めるだろう。
甘くなったものだと鼻で笑ってシーツに潜り込むと、覚醒しきらない目でスクアーロがこちらを見上げていた。

その乾いた唇に触れるだけのキスを落として

サイドテーブルに置いてあったリップクリームを花瓶に向けて投げると、
それはゴトリと音を立てて倒れた。


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ヴァリがみんな幸せならもうそれで良い勢いです

駿
























あきゅろす。
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