今日の第8は賑やかだ。新人2名を含めて環とリサ、そして少年2人が加わって、全体的に溌剌としている。
 そこに来客があるとなれば、賑やかさは一段と増す。
「私は研究レポートを届けにきたんだ。合間にシンラと話を、じゃなくて、アイリスの様子を見に」
「俺は妹がまたムキムキになってるんじゃないかと心配して。事前にアポイントメントは取ってあるからな」
 前者は火華、後者は滝義。応対するは「そこまでムキムキになっていないよ」と唇を尖らせている。
「意見を聞きたいから話し込んでも致し方ないと思ってくれ」
 火華は言外に長居すると告げてくる。
「今日は非番だし。彼女と食事に行く前にちょっと妹を見にきただけだ」
 滝義はデートのついでに寄ったらしい。
「ついで扱いなら来なくていいのに」
 話を聞いた茉希が不貞腐れた。
 それを見ていたリサは呆れながらも、羨ましそうに呟く。
「血縁でも義理でもきょうだいってのは気にかけてしまう存在なのかなぁ」
 隣に立つアイリスが呟きを拾った。
「リサさんならユウさんは弟のような感じに見えますか?」
「んー、どうだろうね。ヴァルの弟子ってなら頷けるんだけど。そういうのはあんまり考えてなかったなぁ」
 意識していなかったことにリサは腕を組んでうんうんと考えこむ。少しして答えを見つけた彼女は「私の主観になっちゃうけど」と前置きした。
「家族ではあるけど、きょうだいって枠組みに当てはめてないのかも。家長がヴァルなのは確かだけどさ」
「リサさん達らしい在り方ですね。枠に嵌めないというのも素晴らしいことです」
「そ、そうかい。ありがとう、そう言ってくれて」
 感動に瞳を輝かせるアイリスに、リサは照れくさくなって鼻を掻いた。
「というか、弟についてはあいつがよく解ってるじゃん」
「シンラさんのことですね」
「うん。実の弟がいるわけだし、聞いてみたら」
 何を訊いてもブラコンな返答になるだろうけど、とポツリと付け足す。
「そうですね。シンラさんにとってのきょうだいはどういう見解なのでしょうか」
 アイリスが辺りをきょろきょろと見渡す。事務処理で宛がわれた席にシンラがいたはずが、姿はない。
「どちらに行かれたのでしょうか」とアイリスが首を傾げていると、シンラが慌てながら入ってくる。しかも詰襟の正装でだ。
「あ、シンラさん。慌ててどうされましか」
「なんで改まった格好してんのさ」
「今日は授業参観なんです。2、3時間ほど抜けますんで」
 シンラが予定表として使われているホワイトボードを示すとリサは目を向けた。
 シンラの字で太々と「授業参観」の表記があった。余白に「すぐ帰ってほしい」とショウの字が添えられていたが、おそらくシンラは気づいていない。浮かれているから。
「それでですねシスター、カメラを探してまして」
「確かあちらの棚にしまっていたような。何か撮るんですか?」
「休み時間のショウを、友達と一緒のところを撮りたくて」
 シンラははにかみながら目当てのカメラを取り出す。
 話を聞いたリサは頬をひきつらせたが、アイリスは両手を合わせて笑った。
「いいですね。写真が撮れたら見せてください」
「はい。これでショウの思い出をたくさん作ってきますね」
(うーん……)
 リサは二人の会話を聞いて苦々しい表情を浮かべている。
(写真を残すこと自体は私もアリとは思うけど。けど、学校で撮るってのは恥ずかしいのよ)
 浮かれる兄にショウが早く帰ってほしいと書くくらい、他人のリサでも恥ずかしく感じていた。
(あいつなりに弟を大事にしてるってのはよーく解ったよ)
 授業参観だけでもこれほど浮かれているのだ。構いたいし可愛がりたいのを、尋ねなくても解る。
(のぼせあがって回りが見えなくなるってのもね)
 頭を冷やせと言いたい。だけどそれは、リサより効果がある人物に任せるのが最適だろう。
(ショウに言われたら耳を貸さないわけにはいかないし)
 弟妹は構いたくなるものだから、お願いされたら聞き入れるに決まっている。そんな気がするし、容易に想像できる。

20210214
(シスコン・ブラコンがテーマなので、滝義兄さんからほんのりシスコンの気配がするので出演してもらいました。)



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