誰もが夢想していること。
ーもしも焔ビト化のない世界がやって来たなら。
 炎に怯えない日を誰もが望んでいる。人々の悲願なれば長時間の祈りも苦ではない。
(もしも、その時が訪れたら姉さんは、もう戦わなくていいんだ)
 研究者であり隊を率いる火華。平和な世の中になれば、彼女は炎を産み出して戦う必要はない。
(また一緒に暮らせるかしら)
 期待に心がホカホカする。
(色んな花を育てて、みんなの所へ持っていきたいな)
 眠る修道女たちへ祈りを捧げながら、慎ましく生活する日を思い描く。
(いけない。集中力を欠いては太陽神さまに失礼だわ)
 気持ちが乱れている己を律して祈った。

「焔ビト化のない世界で、か」
 火華はステンドグラスを見上げて呟く。陽光で美しく輝くものだから、眩しさに目を細めた。
「一緒に暮らせます、よね?」
 隣に立つアイリスがおずおずと尋ねてくる。
 期待のこもった目に、火華は困ったように瞼を下ろした。
「私は、灰島所属の研究者だ」
 瞼を上げた瞳はアイリスを優しく映すものの、研究者らしい一線を引いた眼差しだった。
「焔ビトが発生しなくなっても、私は灰島で研究を続ける。資金と資材と人員が揃っているしな」
「教会には、戻らないんですか?」
「あぁ。私ほどの優秀な者を外に出す気はないだろうし」
 自信たっぷりに、偉丈高に胸を張る。
 アイリスは話を聞いて俯いた。
「離れっぱなしですね、私たち」
 目に見えてしょんぼりしている義妹に、火華は姉の顔で覗きこんだ。
「教会から通うことは許可してくれるさ。いや、させてみせる」
「……姉さんっ」
 アイリスは顔を上げる。喜色に満ちた幼い表情で、火華に抱きついた。
「姉さんとまた一緒にいられるなら、それでも十分です!」
「ふふ。アイリスを一人にはさせないさ」
 火華は抱きつくアイリスの金髪を優しく撫でた。

「……手っ取り早く第8を第5に吸収させれば、アイリスとシンラを同時に得られるんだが」
「姉さん、なにかいけない事を考えていませんか?」
 アイリスが不穏な気配に眉をひそめる。
 火華は素敵な笑顔を向け、「アイリスにここまで思われてる私は幸せ者だなって」と、本音を交えて取り繕う。

20200510
(もしもの事を考えるシスターを考えてみました。そしてブレないプリンセスも考えてみました。)



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