第8の新人は対人戦闘の経験が足りない。
 修練を積むために場を用意してくれた第7へ出向くことになった。最強の消防官に指導を受け、対人で必要な心構えや必殺技の開発(技名にリテイク入ったけど)など、たいへん実になる修行であった。
「風呂でさっぱりしてこい。ウチは基本銭湯だからな」
 紺炉がわざわざ案内してくれた。浅草の町民が1日の疲れを流そうと入っていく姿が見える。
「行ってきますね」
「くれぐれものぼせんなよ」
「フッ」
 2人は紺炉に見送られてよろよろと、疲れた体を引きずるようにして銭湯へ向かった。

 広い浴場に老若の男(男湯だから)が、体を洗ったり湯船に浸かっている。
「この広さ、騎士王の俺にふさわしいな」
「どんな基準だよ」
 シンラとアーサーはまず汗や土埃を流し、疲れた体を癒してくれるような湯船へ、何の気なしに足を入れた。
 無防備な肌を火で炙るような熱が迎えた。
「「あっつぅ!」」
 2人はすぐに足をひっこめた。爪先が真っ赤である。熱湯みたいな熱さになのだ。
「第8の兄ちゃんらには熱かったかね」
 浅草の町民がニヤニヤとしている。熱さに慣れている者の余裕さで湯船に浸かっている。
「ここのは42℃くらいあるし、兄ちゃんたちにはキツイかもなぁ」
 他の町民もこれ見よがしに入湯する。身に沁みる熱さにふうと心地よさそうな声を漏らした。
「よ、42℃……」
「む……」
 シンラは絶句し、アーサーもたじろぐ。第8で使うシャワーは人肌より熱いくらいでそれに慣れている身だ。浅草流のお風呂には躊躇う。
「だからって逃げ出さないぞ。ヒーローは42℃くらい耐えられる」
「フ、騎士はこれくらい突き進める」
 疲れをお風呂で癒したいのだ。シンラ達は自身を鼓舞してもう一度挑戦する。
「絶対お風呂入るマン!」
「いざ参る!」
 熱くても湯船から出ない、という気概で片足を浸ける。
「「あつっ、あつー!」」
 燃えるような熱さに2人は悶える。でも我慢して残りの足を入れていく。
「「ぐうぅ、ふぉおおっ」」
 足だけでなく全身が焼けるんじゃないかという熱さに歯をくいしばって耐えた。
「兄ちゃんたち頑張れ〜」
「ほらもう一息」
 浅草の町民も(面白半分で)応援している。ここで湯船から出たら皇国の連中は腑抜けていると思われてしまう。
「ヒーローはへっちゃらなんだ!」
「こんなもん騎士には効かんっ」
 2人は自分に言い聞かせて上半身を沈めていく。
「「んぬぉおおっ」」
 しかし動きはゆっくりだ。一気に浸かったら脳が逆上せて倒れかねない。全裸で気絶したくない。
「ふんがぁああ!」
「ぐぅうおおぉ!」
 踏ん張って入湯を果たそうとする2人の後ろで、ひたひたと何者かが歩いてきた。
「うるせェぞお前ら。静かに入れねェのか」
「「っ!」」
 振り返ると紅丸が仁王立ちしてた。不機嫌そうに眉間の皺がいつもより深い。
「情けねェ声出しやがって。次やったら閉め出すぞ」
 背中が粟立つくらいのドスを利かせられては、シンラとアーサーは口を閉じるほかなく。
「風呂は静かに入れ。判ったか?」
「すいません……」
「承知した……」
 風呂は熱いのに紅丸の眼力に射抜かれた体は冷えて、めでたく肩まで浸かれた。
 お風呂はとても熱かったがその分気持ちよかった。



浅草の銭湯は江戸っ子仕様だと思うんよ。
20190824



あきゅろす。
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