.売り言葉に買い言葉.
「………なんだよ、溜まってんのか」 酔ったはずみ(だったと思う)で思わず押し倒したシェゾに動揺ひとつなくさらりとそう言ってのけられ、逆にこっちが動揺した。 「な、ななにを……!!」 自分でも情けなくなるほど上ずった声だったと思う。 いやだって確かに自分は彼に惹かれているところはあって確かに酒が入っていたとはいえ確かにいや確かに彼の上に馬乗りになってはいるんだけどそれはそういうことじゃなく、て!!(いやそうかもしれないんだけど) なのに彼が平気な顔でそういうことを言うもんだから!! 「ヌきたいなら手伝ってやってもいいぞ」 「は」 こっちの動揺を知ってか知らないでか、彼は淡々と言葉を繋げると、言葉の生々しさとは裏腹にその長い指で、綺麗に俺の髪を鋤いた。 「ていうかシェゾ、なに、言って」 震える手で彼の手を掴むとひやりと、した。元々彼の体温が低いのか、此方の体温が上がっているのか分からないが。 とにかくこの申し出にこのまま流されてはいけない、と、思う。 しかし彼はなおも、くつりと笑っ、て。 「……お前って溜まったときどうしてんの」 「どうって!!」 「いや、お前の性格的に」 「おおお前こそどうなんだよ!!そういう相手いなそうじゃん!!」 とにかく話の矛先を変えようと思った。それがいけなかった。 次に続く会話に俺は本格的に泣きたくなる。 「別に愛なんてなくてもヤるのは簡単だろ?」 「は」 「だからそこら辺で引っかけて…」 どうでもよさそうに言うシェゾの言葉だが、決して聞き逃してはいけない内容が入っているのに悲しいかな俺は気付いてしまう。これも勇者として生きてきた俺の性、というやつか。幸か不幸か軽く込み上げてきた怒りに少し冷静さを取り戻した。 引っかけたってシェゾ、お前。 「女性を…買ったのか」 ぎり、握った手首を締め上げる。しかしシェゾは一瞬だけ顔をしかめてから馬鹿、と一言続けたのだ。 「なんでわざわざ金を出さなきゃならん」 「引っかけたって言っただろ」 「逆だ、アホ」 「逆?」 ぎくりと。 言われて再度動揺する。確かにあり得ないことではない。 彼みたいな庇護もない生き方をしていれば女性に払う金など無いだろうし(そもそも食事すらどうしているのか疑問だ)、それなら金は欲しいくらいだろう。何より彼の容姿をもってすれば。 其れは容易に。 「……売った、のか」 何を。とは言えなかった。もう彼とは根本的に生き方が違うのだと認識させられた。 どのみち自分はそういう世界とは無縁なのだが、買うより売ると言われた方が悲しいものがある。 ましてや相手に惹かれていたらなおさらだ。 シェゾはその深い、深海の様な瞳で俺を射抜く。 「男は割高で」 泣きたくなったのは多分この瞬間だと思う。 確かにそうなのだ。彼の容姿なら男だって引っ掛かる。プライド高い彼からは想像が難いが、どこか自分を追い詰める癖のある彼からは予想も不可能ではない。 だからこそ開口一番に冒頭の言葉が出てくるのだ。男に組み敷かれることに慣れている態度だ、あれは。 俺の中で理性と本能がせめぎあう。例えば俺がこのまま勢いで彼を組み敷いてしまっても、次の朝には今まで通りの振る舞いが行われるのだろうけど、だけどこんな愛のない行為に俺が耐えられるかは甚だ疑問で。 (て、違う!!何を考えてる俺は!!) そもそもそんな理由でこうなったのではない。酔った弾みなのだこれは。俺は別に溜まってなどいなくてただ…なんだ、勢い、そう勢いだ!! 「で、ヤるのか」 「ヤらないよ!!」 なおもさらりと俺の下で誘惑(本人にその気があるのかは知らないが)してくるシェゾに怒鳴り付ける。 シェゾはそれはよかったと呟いてから俺を睨み付けて。 「…なら早く退け」 言われて彼の上に跨がったまま、手首をベッドに押し付けていたのだと思い出した。 なんていうか自分の不甲斐なさに泣きたくなったのはもはや言うまでも、ない。 ← (強制終了) うちのラグシェは基本ヘタレ勇者の大分一方通行なのでごめんなさい。 ついでにシェゾは若い頃大分やらかした感じですみません。 [管理] |