(声を枯らして返してくれと叫びたい)

じゃり、歩く足元で砂がなった。別段気にすることはない、ただ、振り降ろせば終わる。目の前のそれが恐怖に彩られるのを見て喉の奥で、笑った。

そう、それでいい。
俺はこれで良い。
このくらい。

血にまみれているのがちょうどいい。





.微笑みが奪うのは.







自分が欲しいのは彼女の魔力であってそれ以上でも以下でもなく、ましてや馴れ合いなんてもってのほかで、友達感覚でいられても、困るのだ。

なのにどうして自分は彼女と協力したりとかしているのだろう。

思いながら先ほど切り落とした魔物の、飛び散ったその返り血を拭う。少し離れた場所で戦っていた少女が走ってくる気配を感じながらも、折角なので魔物の魔力を貰っておいた。(それなりに強かったし)

「……しけてんな」
「君って割りとなんでも奪うんだね」
「るっせ」

ややあって隣に並んで見上げてきた少女を見て、シェゾは軽く顔をしかめた。
何でも奪うだなんて、自分がそういう人間だと知っておきながら、少し近寄りすぎではないのだろうか。これは。

それに何も自分は奪ってばかりではないのだ。先ほどの魔物から2、3、傷を負わされている。

「奪われたら奪い返す、それでイーヴンだ」

言って腕の裂傷を舐めたら、彼女は案の定心配そうに覗き込んできた。

「怪我、したの?」

そっと手をとって口の中で治癒を唱える。じんわりと暖かい光が、傷を包ん、で。

腕の代わりに喉が、ぎぅ、と、締め付けられた様に痛んだ。
わかっている、これのせいだ。この治癒魔法、自分を心配する少女、あたたかな光が。

闇を溶かすんだ。

「……アルル」

確かに深く息を吸ってシェゾは吐息と共に名前を呼んだ。無意識だった。

だがしかし彼女が今、何?と、顔をあげなかったら、自分は右手に握ったままの剣で左の腕を掴んだ彼女の手を切り落としていたんじゃないかと、思う。

そう、彼女の触れた左腕から焼け爛れて溶けてしまう錯覚を振り払えなくて。

(だって、)

「…おまえ、俺がお前を奪う立場だって、忘れてないか」
「え…、でも、理屈じゃないし」

言えばアルルはにっこりと笑った。 いいんだよ、と無心の笑み。見返りを求めない優しさだ。あたたか、な。

シェゾとてそれはわかっている、それが理屈ではないということも、理屈でわかっている。
だけど、駄目なのだ。自分にそれが向けられては。

その微笑みは分け隔てなく。全てを癒し、総てを赦し。心の闇を、根こそぎ。

「いいから、余計なことはするな」
「ちょっと、……むー、素直じゃないなー」

アルルの手を振り払ってシェゾは歩き出す。治りきっていない腕から血が飛んだが、気にせずに進むシェゾの背中を、アルルは小走りで追いかけた。

優しさなんていらない、温もりなんていらない、彼女とは敵同士でいい、既に、自分は血にまみれているのだから。

彼女に求めるのは魔力だけでいい。
彼女の微笑みは今まで自分が生きてきた証を根こそぎ奪ってしまうから。



だってそうしたら闇で出来た自分は、なにものこらない。

(本当は彼女にもう大分色々奪われているのだけど)(だからその魔力で俺の過去を返して下さい)



癒されるのが恐い、なんて。

(今まで170年そう生きてきた彼が嫌悪を覚えるのは当然だと思うんだ)





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