.お天気なので.


君が行かないようにぎゅっと強く握り締りしめた服に皺がよってしまっても天気が良いので許してはくれないだろうか。



「………何だよ」

割りと年中機嫌の良い自分と違って(だってそれがボクの取り柄だと思っている)彼は意外に上下の起伏が激しい方だ。
だから出会っていきなりお前が欲しいだったりとか、よぅって挨拶を交わして隣を歩くことを許可してくれたりだとか、それこそ今日みたいに一瞥だけで素通りなんていつものことなんだ、けど。

「あの、さ」

思わず反射的に掴んでしまった君のマントの裾を、だけどボクが離さないのは何故?自分でもわからないけれど何と、なく。

早く帰りたそうな、面倒くさそうな君の視線が痛い。きらきら太陽が眩しくボクを照らす。風がボクらを撫でていく。

(あぁ、だって、天気が良かったんだ)

こんな気持ちの良い日に君がダルそうにしてるのが勿体無いだなんて言ったらそれこそほっとけとか言われそうなので、ボクはなんとか君のテンションを上げてくれそうな言葉を探す。

「い、い一緒に遺跡巡りしない?!」
「何で」
「て、天気がいいから!!」

……ああ、焦ってると録な言葉が出てこないって本当だなって思った。
遺跡潜りとか面倒くさそうなことに乗るわけないじゃんとか天気がいいのに遺跡に潜ったら意味ないじゃんとかボクですらわかる突っ込みどころが一杯だ。

シェゾは案の定呆れた顔でこっちを見て一言。

「関係ないだろうが」
「ですよね…」

端的な言葉にしゅんと項垂れるボクを見下ろす君はそろそろ我慢の限界だろうか。いまだ君の服を握り締めたままのボクに表情を歪める、君は。

(相当怒って…ます?)

恐る恐る見上げたボクに気付いているのかいないのか、顔を横に向けゆっくりとした動作で、そのまま、ひとつ、大きく。




欠伸した。




………あれ。

それからまたこっちに顔を戻してボクの手を見詰めて口をひらく。

「俺は帰って寝たいんだ」

あれ?
そこで気付いた。ひょっとしてこれは、君は機嫌が悪いのではなく。

「……眠いの?」

言ったら睨まれた。
あ、なんだ。そうか。ボクは納得する。機嫌が悪そうに見えた君は要するに眠かっただけだと。

(なんだ)

心配して損したような安心したような。何はともあれそれなら話は速い。せっかくなのでそのまま君を誘うことにした。

「じゃあお外でお昼寝しようよ」
「何で」
「ボク、いい場所知ってるんだ」
「人の話を聞け」

握った裾をそのまま引っ張れば彼もそのまま着いてくる。そうだよどうせ寝るなら外の方がいいとボクは思うんだ。

ボクは後ろの君に笑いかける。君は一瞬だけ少し驚いたように眼を開いた。

「だって、天気がいいから」

言えば、いつまでも君の裾を離さないボクに観念したのか、外で寝る魅力に動かされたのかは知らないが、気まぐれな君は大人しく、ボクに着いてきてくれた。

やっぱり天気が良い日は、気分もよくなるんだよね、なんて考えて、ひとり笑った。



このままの流れで君の隣で寝ることも、天気がいいので許してはくれないだろうか。



ここ数日のお天気が非常によかったんですというはなし。





あきゅろす。
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