「死ぬ時の感覚を知っている」 それは無機質に銀の睫毛を附せて囁いた。驚愕に揺れた瞳をゆっくり見上げられる。そのサファイアが懐かしい、なんて、曖昧な感覚。 「俺を、俺らを、舐めるな」 そう言って薄く微笑んだ彼のそれはどこか哀しかったけれど。 隣で彼の服の裾を掴む少女が、きゅ、と。胸に当てた手を握り締める。 自分の隣で寄り添うように立つ彼女は、凛と顔を上げている。 「わたくしはお約束いたしました。死してなお、サタン様のお側に」 くらり、軽い目眩がした。そうだ、確かに言っていた、彼女は。彼女は確かに最期のあのとき。笑っ、て。 「わたくしは構いません。永遠に貴方の手の中で踊ること」 ふわり優しく微笑む彼女はそっと我が腕に手を添えた。びくり、体が震えるのは恐怖ではなく。恐いのではなく。 (ならばなぜ震える?)(どうしてこんなにも世界が歪むのだ!!) 栗毛の少女が一歩踏み出した。ざ。確かに土を踏む音。しっかりと踏み出す意思。 ゆっくりと顔を上げて私を見た。 「ごめんね、サタン、思い出すのが遅れて」 1000年は永かったよね。そう言って笑う彼女の笑顔に、明るいだけではない、強い意思を見たのは実に1000年ぶりだ。 ありえない、ありえない、ありえない。 ありえない記憶のはずだ、彼女らは彼女らであって彼女らではない。作られた者であって本物、では。 (ほんとう、に?) 元よりあの頃の彼女らも創造主に作られた者だったではないか。創造主が代わっただけだ。意思を持って動けばそれはもはや本物で。私の予想外の行動をしたではないか、現に、今!! 栗毛の少女が手を伸ばす。琥珀の瞳がゆるやか、に、細められる。 しょうがないな、と。呆れたように息を吐く。 「キミが呼んだんだよ?全く相変わらず膨大な魔力を変なことに使って」 なんて言って笑った彼女は、彼女だった、間違いなく。 ぐら。今度こそ本当に世界が反転するかと思った。彼女らは、私の作った彼女らが、自我を? (否) ( あ の 頃 の ) 不覚にも温かいものが頬を流れる感覚がした。 「仕方ないから付き合ってあげるよ」 「どうせ死人だしな、好きなようにするさ」 「サタン様が望むのなら」 永 久 に .寂しがりの魔王様の為に ← [管理] |