.イノセンス.

毎日同じ日が続いているわけではないけれど長い目で見れば何も変わっていないわけで。停滞するこの世界を幸せだというの、なら。






「ボクは好きだよ」

能天気にそう言ってのけた彼女は大きなパフェの頂点の生クリームを掬って食べた。その仕草は歳の割りに幼くて、それでいて凄く美味しそうだったのだけれど。だけど自分は好きではないから、それ以上何も思わなかった。

それで手元のコーヒーにミルクを容赦なく注ぎ込めば彼女は物珍しそうに此方を見るのだ。

「君って…甘党だっけ?」
「気分だ」

黒から薄く色の変わっていくコーヒーを見つめながら描かれた幾何学模様をマドラーでかき混ぜる。こんな他愛のない会話をするようになったのはいつから?
思って、やめた。

考えてはいけないことだ、これは。

彼女とこうやって喫茶店にいることも相席していることもここの勘定をおそらく自分が持つことになることも彼女の嫌いなサクランボが自分の皿に避けられることも甘いもの続きで喉が渇いたとぬかす彼女が此方のコーヒーをねだることも全てもう、慣れて、しまったこと。

気にしてはいけないこと。
彼女に合わせて味覚が甘くなった気もするし、初めからこうだった気もするし。

(ああなんだ、これは)

苛立ちと、違和感と、それでいて少し安心している自分がいることにどうにも落ち着けなかった。違和感を抱いてはいけないと、脳の奥でシグナル、が。

(自分は、いつから彼女とこんなに親しかった?)

目の奥を砂が舞う。ぐるぐると円を描くのは薄い茶色、彼女の髪色と同じコーヒーだ。甘くなった。

いつから?

3度、考えては行けないことを思案する。考えてはいけない。答えは出ないのだから。記憶を巡っても何も変わらない。

変わらないのだ。

彼女がコーヒーを奪って苦いと文句を言うこともそれに自分がなら飲むなと告げることも彼女が照れたように舌を出して謝るのもそれに自分が柄にもなく。

微笑んでしまうことも。



「……シェゾ」
「あ?」
「ボクは、ね、」

シグナルがなりやまない脳の中を砂塵が舞って。本当は気づいてはいけないと気付いている。





(停滞するこの世界を幸せだというのなら気付いてはいけない)

(その瞬間にこの世界は変わってしまうのだから)



..

彼女と殺しあったことなどないこの世界で。



(ほのぼのと見せかけてドシリアスだったりする/真魔導設定のぷよのはなし)


あきゅろす。
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