.山羊は毒を持つ.
「闇の」 短く、的確な表現で呼び止められる。振り返って視界に入ったもはや見慣れた筈のそれに、しかし違和感を感じた。 「お前……誰だ?」 「クルークだよ」 何処か感心したようにくつりと笑うそれは、目にかかるガラスをくいと動かし、シェゾを睨めるように見上げた。 瞳が、赤い。 ふと、彼がいつも小脇に抱えている本を思い出した。強大な魔力を秘めた本。普段ならシェゾが飛び付きそうな類いのモノであるが、実を言うと無意識にあの本には嫌悪感を抱いていたので放置していたのだ。そして目の前の彼はそう、その本の発していた空気に似ていた。 「本の魔物か」 「ご名答、闇の魔導師」 そう言って瞳を細めて1礼。その、普段のクルークが絶対しないような仕草に、シェゾは吐き気を催した。 「他人の身体をお借りしての登場とは、随分な身分だな」 実はシェゾは、こういう他人の意識を勝手に乗っ取ったりする行為は大嫌いだった。以前、光の勇者に好き勝手された経験上、いい思い出がない。目が覚めたら別の場所にいるという恐怖をしらないのか、コイツは。 「意識を上書きするな」 嫌悪と侮蔑の意を込めて吐き捨てたら、本の魔物は愉しそうに微笑んで、くいと、何やら紫の物体をひっぱりだした。 「案ずるな、上書きではない、入れ換えだよ」 しかも同意の上だ、と。それは普段、というか、元々の身体の持ち主であるクルークの。ああそういえば、あの勇者も(シェゾには見えなかったが)身体がない時は魂でウロウロして見聞きしてたって言ってたな。 だがまぁどちらにせよ褒められたことでは無いのだが。 「それはそうと、何の用だ」 そう、本題はこっちだ。本の魔物が用もないのにわざわざシェゾの前に姿を表すとは考え難い。何かしら意味が有るのだろう。 話が早いと魔物は笑う。 そうなのだ。彼はシェゾに用があった。彼の、器に。 シェゾの魔導力、身体能力、精神力どれをとっても申し分無い、少なくとも今の器に比べれば。 系統が闇と言うのも都合がよかった。自分の力と反することは少ないだろう。それでいて人間だ。魔族とやらと違って乗っ取りが容易い。 この器を踏み台にすれば、元の身体に戻るのも容易かろう。 そう考えて接触を試みた。あとはどうやって口説き落とすかだが、これは一言、用意しておけば良かった。 「私の魔力に、興味はないか?」 誘うように囁けば、ピクリと、やはり彼は反応を示す。一瞬の動揺だったが手応えは充分。追い討ちのようにもう、一言。 「お前が望むなら、やろう」 彼はこの魔力が欲しい。自分は彼の身体が欲しい。利害は一致している様に思えた。 一見すれば。 しかしその実、魔物は魔力を渡すと同時にシェゾの意識の乗り換えを行うのであるから、利があるのは魔物にだけの取り引きなのだ。 魔物はそれは言わずにシェゾを見上げる。値踏みするような視線の先には、蒼い瞳。 ああこいつも大嫌いな蒼だ。 蒼、碧、青、あお。 これに身体を乗り換えたら大事に魂を本の闇にしまってやろう。闇の魔導師だからちょうどいいんじゃないだろうか。 思ったら、シェゾの手が魔物の髪に、触れた。魔物は笑う。 (憐れな魚が、餌に。) 「断る」 「な…っ」 しかし予想外の返答に魔物は固まった。 断るだと? まさか裏を気付かれたか、と思う魔物にシェゾは不機嫌そうに眉をしかめ、なんとこう言い捨てた。 「その偉そうな態度がむかつくからいらん」 「は?」 魔物はさらに固まる。 そして暫しの沈黙。それから微かに肩を震わせていたが、ついに堪えきれなくなって大声で笑いだした。 「……くっくっく…、あーっははははは!!」 シェゾはそれを一瞥し、ますます不機嫌そうに視線を外す。魔物は笑ったまま彼を見詰めた。 面白い。面白かった。 闇の魔導師のクセにむかつくからいらんだと?! 「気に入ったよ、シェゾ・ウィグィィ」 「俺は別に」 息を整え改めてシェゾに向かえば、彼は戸惑いからか、少し、警戒を解いて立っていた。 「次は手合わせ願いたいものだよ」 些かの敬意をこめたその意が彼に届いたかはわからない。だが彼はその言葉に何か満足するものがあったらしい。 ニヤリと不敵に笑うと燃えるような蒼い瞳で相手を見下ろした。 それは、獲物を追う瞳。 「そんときゃ魔力、貰ってやるから感謝しろ」 狩るものと狩られるものとの立場が同列になった瞬間だった。 闇と紅の、魂の喰らい合いが始まる。 .←. 実はチュは未プレイなので怪様のキャラとか喋りとかしりません(爆)間違ってたら言ってくださ…。 ぷよ!でシェゾとクルの絡みがなかったのでシェゾがあの本にどういう印象を持っているか知りませんが、シェゾさまがほっとかないと思うんだけどなーっていう軽く捏造入った勝手設定。 ていうか正直あや様とシェゾの設定とか関係とかそれに関する絡みとかめちゃくちゃ美味しいと思うんだけどな!! [管理] |