.長い人生の戯れに.
自暴自棄になんてなっていた訳ではないけれど彼の与えてくれる闇がどうにも心地よかったのは事実で、普段おちゃらけた、彼が、不意に落とす陰に同情してやったのかもしれないし。 戯れに繋がれた鎖がジャラリと流れたと同時に香る鉄錆が血のそれに似ていたなんて、あり得ないと首を振れば、首に繋がれたそれがまたジャラリと鳴るのだ。 「どうした?」 くつ、と笑い指を伸ばす彼に視線を投げてから、別に、と。カツン、固い石の床に靴音が響き爪先で鎖を持ち上げた彼がその長い指で。頬を、つぅ。 「似合うではないか、奴隷のようだ」 「貴様…悪趣味だろ」 「それを享受するお前もなかなかだ」 変態が。 その言葉はどちらから出たものか分からない。鎖を持ち上げる奴に視線を合わせたら無造作に首を絞められた。 圧力から逃れるように体を引けば自然に背中は地面と水平。スプリングに弾むベッド。軋まないそれは高級の証で、ただ、鎖の音だけが耳障りだった。 水のように流れるエメラルドグリーンも、氷の様に冷たいレッドアイも、女に困らない奴が敢えて男に手を出した理由を問いたら混沌の様に深くかつ、至極単純だった。 「面倒がない」 ああそれは成る程と思ったのは事実だ。愛だのも責任だのも面倒なしがらみも何もないだろう。どうせ此方にも愛なんぞない。有るとしたらせいぜい同情だけだ。 所詮。 「いやしかし、私は個人的には貴様が好きだよ。それなりに」 「俺は大嫌いだ」 「魔王様に対してその言い草だ」 所詮はたかが人間のクセに、と、高笑いを響かせて満足そうに。お戯れを行う魔王様の指がそのたかが人間めを束縛している鎖をなぞる。 「だがまぁ、優しく抱くのは女性だけでよかろう?」 ぎり、と音をたてたのは首だ。奴の右手には鎖。己の首に巻かれたのは革、繋がれた鎖が引かれれば当然、首は絞まる。 「我が妃を狙う輩としては貴様が大嫌いなのでな」 「…の、へん…たい、がっ!!」 酸素不足で揺らぐ視界が最後に捉えたのは、からかうような、甘い笑顔。 完全に落ちる前に取り敢えず力の限り蹴っておいた。 ... 傷の舐めあい。束縛するのもされるのも。 ← [管理] |