彼から、意味の正しい甘い言葉を聞いたためしはない。

(一種の間違いでお前が欲しいとかはあるけれど)

けれどボクは彼の好みとか(案外甘いものが好きだったりするのだ)些細な癖とか実は泣く子と朝に弱いんだとか猫好きなんだとか知っているし、本当は、不器用なだけで優しいんだとかまで知ってしまっている。

それでも彼の口から甘い言葉を聞いたためしはないし、ボクもそんな言葉を望んだことはない。

彼の銀髪が羨ましいくらいに澄んでいても、見上げるくらい身長が高くても、前髪から覗く睫毛が誰とどう比較したって長くても所謂造形が全て整っていても真意の読めない瞳が蒼く、輝いていても。

その造形に反して変態とからかうことはあっても。

彼の腕は暖かいと知っていても。





それでもボクらの関係は。





.cafe au lait.






「ね、シェゾ」
「……なんだ」

街ですれ違った君の名前を呼べば立ち止まってくれる。呼ばなければきっと視線を交わしておしまい。

君はコミュニケーションとやらが不足気味だから常に僕が引き留める。君が僕に用がある時を除いて。

「新しく喫茶店ができたんだって、行かない?」
「ひとりで行けば良いだろうが」
「ぶぅ、一人じゃつまんないじゃん」
「ならサタンでも誘え」

あらま、それは正論だ。彼ならボクが誘えば二の句もなく来るだろう。ただ…彼と行けばのちのち何が起こるか分からないという点を除けば。

「やだよ、ルルーに殺されるし」
「は、正論だ」
「だから、ね?」

ボクはもう一度押しをかける。彼は機嫌が悪くない限り、つきあってくれるのだ。(そもそも機嫌が悪いときは、立ち止まってすらくれない)

「奢れなんて言わないからさ」
「…当たり前だ」

言いながら視線を逸らしてため息。あと一歩だって、分かるボク。よし、次で君はばたんきゅーだ。とばかりにとどめの一言。

「カフェオレが美味しいって」

君がカフェオレに妙なこだわりがあるのは知っている。だからこう言われたら噂の是非を確かめたくなるだろうと、読んでのこと。苦虫を噛み潰した、とはこういう表情をさすのかな、なんて思うけど。

忌々しそうに視線を向けた、コレが彼の折れた合図。

「やったぁ」

ボクは彼の前をスキップで歩き出す。彼は呆れたようにゆっくりしっかりついてくる。

「ふふふー」
「何気持ち悪い笑いしてんだ、金魚商人か」
「うわ、ひどっ」
「………」

そんな他愛ない会話。歩幅は一定。距離も一定。つかずはなれず。それが君とぼく。


甘くもなく。けれど苦くも、なく。

それが、かふぇおーれ。



.おわる.

シェゾのカフェオレ発言はびっくりだったというはなし。アルルとシェゾの関係はこんな感じ。




あきゅろす。
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