黒い銃口と鮮やかな笑み
黒い死神。
そう呼ばれた彼は今、俺の目の前で銃を構えていた。
ボンゴレファミリーの忠実な殺し屋だった筈の彼は、あの漆黒の目をいつのまにか俺に向けていた。
綺麗な目だ、なんて考えている場合では無いのだろうけれど。
銃口は俺の方を向いたまま。
思わず笑みが浮かぶ。
「……余裕だな。俺にはお前を殺せねぇとでも思ってんのか?」
ピリピリとした殺気を感じる。
それでも笑みが消える事は無い。
「お前なら俺を殺すなんて簡単なんだろうね」
いつもと変わらない声。
で言えたと思う。
しぐさも表情も。
取り乱してやる気なんてない。
考えている事がわかったのか、チッという舌打ちが聞こえた。
再びくすくすと笑うと彼の眼の力が強くなる。
場の圧力が一気に高くなったように感じられる程。
お、引き金に指が掛けられた。
そろそろ撃たれるかな?
楽観視している俺。
生き残る自信があるから、ではない。
彼がこの距離で外すなんてありえない。
彼の腕は俺が一番知っている。
それだけは、絶対。
そろそろ引き金を引いてくれないかな。
なんて。
銃口の前でのプレッシャーなんて疲れるだけだから。
彼は俺に銃口を向けたまま何事かを考えているようだった。
読心術は無意味。
だから探りはしない。
ただにやにや笑って見ているだけ。
あぁでも彼はそれすらもお気に召さないらしい。
ほんの少し逸れていた意識が俺に戻ってくるのを感じる。
「どうするか決めた?」
問えば返ってくるのは鉛玉か。
「そんなのはとっくに決めてる」
冷静に返されて少し拍子抜け。
じゃあさっさとしろよなー、なんて心の中で悪態をつけば、実際に引き金は半分まで引かれ。
「なぁ、ボンゴレ十代目。お前はこの人生、幸せだったか?」
いきなり何を言い出すのかと目を瞠るのは一瞬。
得意の不敵な笑みを浮かべて俺は言った。
「そこんとこの判断はお前にお任せするよ」
聞いた彼は少し目線を下げる。
だから本当に早く、
胸に衝撃。
あぁ、ようやくか、そう思いながらゆっくりと後ろに倒れる。
最期に見えたのが彼ではなく、皮肉な程晴れ渡った大空なのが少し残念だと考えながら、俺は意識を手放した。