[携帯モード] [URL送信]



植田さんの寝顔ってホント無防備だと思う。

普段パーフェクトオーラが放たれているから余計にそう思うんだろうけど。
いつもはキリッとした目元が今は閉じられていて起きている時よりも幾らか幼く見える。

可愛い。なんて。

俺がこの人に対してそんな風に思うのもこの時だけかも知れない。
ベッドの上、横で眠る彼の寝顔を見つめている内に段々と頬が緩み始める。
無意識の内に伸びた手が彼の髪に触れた。
触れた瞬間に眉毛がピクリと動いたけど直ぐに規則正しい寝息が聞こえてきたのでそのままやんわりと撫で続けてみる。

コシのある髪の毛の感触を掌で楽しみつつ、じっと寝顔を観察する。
幼く見えるとはいえ寝顔だってもれなく美形な訳で、正直言ってこんな間近で見るもんじゃないってくらいに整っている。

何で俺が、こんな凄い人の横にいるんだろう。

決して卑屈になっているのではなく、単純に驚きと喜びからそんなことを思ってしまう。
この人が俺のことを好きになってくれたのは限りなく奇跡に近いとも思うし、この巡り合わせが必然ではなく偶然だったのだとしたら自分は相当運が良かった。

なんてことまで考え出したらどうしようもなくなって思わず彼の頬に口付けを落としてしまった。
今俺の胸に溢れているこの感情は愛しいと言う気持ちで間違いないだろう。
この気持ちのぶつけ所は当然彼しかなく、起こしてしまうかも知れないと頭の隅で考えながらも止まることは出来なかった。

今度は頬ではなく形の良い唇へそっと触れるだけのキスをする。
いつもより柔らかいその感触が俺の欲求を増幅させ、一度ではなく二度、三度と繰り返していると彼からふっと確かな息が漏れた。


「……起き、た…?」


潜めた声で訊ねてみると、もう一度息を吐くように笑った口が「まだ寝てる」と静かに動いた。
それが何を意味するのかが分かったら堪らなくなって逸る気持ちを抑えつつさっきよりも強目に唇を押し当てる。
黙ってそれを受け入れる彼に少し調子に乗って唇を食むような口付けに変えると頬に手が触れた。
目が合い、寝起きの少しとろんとした表情で彼が微笑う。


「珍しいね。どうしたの」

「あ、…ごめん、なさい…起こした…」

「いいよ。こんな可愛い起こされ方なら大歓迎だ」


寧ろ嬉しいと微笑う彼に居ても立っても居られなくなってもう一度唇を触れ合わせると彼の目がきょとんと丸くなった。
そのあどけない表情が愛しくて愛しくて、胸がきゅうと苦しくなる。


「…すき。植田さん。好きです」

「…本当に、どうしたんだよ」


少し困ったような顔をする彼にどうしたって訳じゃないんだと首を振る。
頬に添えられている手に甘えるように擦り寄るとしょうがないなと言わんばかりに優しく抱き寄せられた。


「植田さん…植田さん」

「ん?」

「好きです。植田さんが、好き」

「…可愛いな、もう」

「好き。すごい、好きなんです」


胸元から顔を離して見上げるとほんのりと赤く染まっているように見える頬。
視線が合った後に彼が困ったような顔で苦笑する。


「ごめん。俺、そんな風に言われるの、弱いかも知れない」

「そんな風?」

「好きって、何度も」


そう、なんだ。

確かに俺は今みたいに何でもない時に積極的に想いを伝えることはあまりないかも知れない。
照れているからか、その少したどたどしい言い方にさえ愛しさが込み上げた。
目を見つめながらもう一度「好きです」と伝えると逃げるように目を閉じて溜息を吐く彼。


「たまにスイッチが入るよな、紘夢くんって。嬉しいけど、…いや、嬉しいよ。俺も、紘夢くんのことが好きだ」


最後だけはちゃんと目を開けて言ってくれる彼がやっぱり好きだと思った。
何かもう、今日は止まらないみたいだ。
あまりしつこく言い過ぎると言葉が軽くなりそうで、口から出掛かった二文字を飲み込んで代わりにぎゅっと抱きつく。


「…あまり可愛いことをしないでくれないか」

「…嫌、ですか」

「嫌じゃないよ。でも、そんな風に甘えられたら愛されてるんだなって自惚れてしまう」

「……植田さんは、もっと自惚れて良いと思います。俺、貴方が思ってる10倍は…貴方のこと愛してますよ…?」


彼を真似て最後だけ顔を上げて伝えると、僅かに目を見開いた彼が嘆くように「参るよ、本当に…」と言って短く息を漏らした。
多分照れてるんだと思うけど、その様子が凄く可愛くて笑ってしまう。


「植田さんって、意外と攻められるのに弱いんですね」

「…だからさっきもそう言っただろう」

「ふふ。そう言うとこも好きですよ」

「…揶揄うのは止めてくれ」

「揶揄ってません。本気で言ってます」


微笑みながら答えるとぐっと身体に体重がかかってあっと言う間に視界が反転した。
見上げた先、切れ長の目に射抜くように見つめられ驚きと緊張で身体が竦む。
僅かに口元を緩めた彼がそのままゆっくりと俺の耳元へ口を寄せ、故意に低められた声で囁く。


「俺の方が愛してる」

「っ……、」

「愛してるよ、紘夢くん。これ以上ないくらい、俺は君を、愛してる」


一言一言を吹き込むように低く落ち着いた声で囁かれ、終いには耳朶を口に含んで柔く吸われてしまえばこの俺に為す術などなく、潔く降参するしかなかった。


「…ず、るい…ですよ…」


そうぼやくと、視線を合わせてきた彼が「真っ赤だね」と言って愉しそうに笑う。


「いつもの紘夢くんだ」

「っ……さっきのだって、俺だし…」

「分かってるよ。積極的な紘夢くんも好きだけど、今みたいに照れて真っ赤になってる可愛い紘夢くんも好き」

「っ、揶揄わないで、ください」

「揶揄ってないよ。本気で言ってるから。ね?」


さっきの俺の言葉をそっくりそのまま返され、ああやっぱり俺はこの人には敵わないんだなと改めて思った。

敵わないけど、それでも――


「植田さん」


そっと手を伸ばすと意図を汲み取ってくれた彼の顔が近付いてくる。
迷うことなく首の裏に腕を回し、唇が触れる寸前。


「愛してます」


そう囁いて微笑うと、彼は「俺も」と言って見惚れるくらいに綺麗な笑みを見せてくれた。
その表情を脳裏に焼き付けながら目を閉じる。
それから間もなくゆっくりと、優しく重なった唇。

俺達は暫く抱き合ったまま、二人で幸せに浸っていた。





あきゅろす。
無料HPエムペ!