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比較的新品の枕はいくら顔を押し付けても潰れない頼もしさがあった。けれどきっと、黙って大人しく寝てくれない主人達に、張り切った羽毛は不満を募らせているだろう。今日とて、端を力いっぱいに掴んで、唾液を溢して、枕の寿命を縮めるような真似ばかりしている。
ニールは枕にすがる。溺れるものは藁をも、と言えば枕に失礼だったが、逼迫した心境は諺に等しい。快楽に溺れ、すがる以外どうしたらいいか分からない。潮瀬のような律動を受け身体の8割はもう、浚われている。

「あっ、あ、あぁ…!」

臀部ばかり突き出して、背後から突き上げられて、端から見るとひどい体勢だった。けれど、獣的なのは嫌いじゃない。
尻を掴んだり背中へ置いたり腿を撫でたりと、たゆたっていた男の手が遂に腰を捉えると、ニールも息を飲む。
一際の声と共にニールが背を仰け反らせたのと同時に、張り詰めに張り詰めた男根が、今とばかりにはじけた。
熱い奔流を放ちながら、どんと、いっそう奥へ打ち付けるのはこの男の癖だ。最後の一滴を注ぐまで捕まえ込んで、最奥に搾りきるまで離さない。意図的なのかそれとも、無意識ならばよほど子孫を遺す本能に長けている。
やがて男の脈動が収まるのを直に感じながら、ニールは息を吐き、ようやく唾液を飲み込んだ。
グラハムも息を整え、腹部を抱いていた腕がそっと離れる。軽くなる身体をニールが少し寂しく思う内に、穿たれていた男根もゆっくりと抜かれる。入り込んで来た時の猛々しさはどこへ行ったのかというほど、最後は呆気なく外れた。
充足感と疲労がいっしょくたになる。
しかしまだ身体は落ち着かず、中を這うような感覚にニールは震える。男根を追うように精液が伝った。

「……ぁ、」

こぼれる、と思う間にそれは秘所を下り、ぼたりとシーツに落ちた。
グラハムも見ているだろう。

「……お前洗濯しろよ」
「分かっているとも」

明朗と、確信犯的に返すのでたちが悪い。
まぁいいけど。
ようやく重力に任せ、ニールは身を横たえた。ベッドが柔らかく迎える。しならせていた背を労るように丸くなれば、甘い痺れの中、心地よく眠れそうだと思った。
しかしグラハムにはまだその気はない。
姫、と呼び掛ける目覚めの使命を負った王子、と言うより睡眠妨害の男は、片手をニールの背後につき、覆い掛かるようにしながら、もう片手、利き手の指を浅く膣に挿し入れる。まったく、好きなものだ。ニールは足を擦り合わせて、薄く目を開ける。

「もう一度しても?」
「……バック以外でな」
「姫が乗らないか」
「気分じゃねぇよ」

ならばこのまま、と言うが早いがグラハムはニールの背後へ横たわり、後ろから、いつの間に回復したのか屹立した男根をあてがう。
横になっただけで実質バックじゃねぇかと言い返したかったが、瞬間入り込まれる感覚に息を飲んだ。

「んっ、んぁ…」

グラハムは背後から手を伸ばし、指先でニールの陰核を擦った。水の張った所へ電流を通したように、強すぎる刺激が全身に走る。ぱっと手を重ねて止めようとすると、グラハムの指を伝ってニールの指まで液体で濡れる。狭い脚の間は、ニールの滲み出したものとグラハムの吐き出したものとでぐちゃぐちゃになっていた。生々しい感触に一瞬ひるんだ隙に、グラハムの手が逆転してニールの手の上に重なる。そしてそのままニールの手ごと擦り付ける動きを続けるものだから、ニールは耳を赤くして毒づいた。悔しいから唇を噛む、それでも声が漏れる。
ゴムなしのセックスを、最初に頼んだのはニールだ。思えば純真な男を汚してしまったのかもしれない。非童貞に純真も何もないが。
それからはもうぐずぐずだった。白けも焦れもなく流れるように接合している。さも交わっているのが自然とでもいうように。

「まっ…、いく、っ」

浅はかな抵抗と抗えぬ快感が拮抗して遂に到達点を見ようとした時、グラハムは手も腰も止めた。どころか、固いままの自身をニールから外す。

「は…っ?」

ここまで滅茶苦茶にしておいて放り出すとはと、半ば責めるようにニールは振り向いた。
文句を視線で掬い取り、グラハムは悪戯のばれた少年のような、しかし男の顔で、やや余裕なく小さく笑った。

「相対したくなった」
「…………」

腕をついて上体を起こし、ようやく体勢を変える気になったらしい。だから言った、のに。
眉間にしわを寄せているニールにグラハムは口付ける。つい、鼻から声が、ねだるように出た。それが心にはまったのか、グラハムは舌を割り込ませキスを深める。下をいいようにしておいて今度はこっちかと、口を開けながらニールは腰をよじる。
男の形を覚えた身体は、空白を空白として捉えて、それを良しとしない。
満ちようとしていた快感は、しかし栓が抜かれたからと流失するものではなく、それはどろどろとろとろと粘着質だ。
続きを、早く。
くそ、とまるで色気のない言葉を吐いて、ニールは身体を反転させながらグラハムを押した。強引に。足を絡ませ、体重を掛け、身体ごと返す。日頃強固な男が気も動作も緩慢になるのはこんな時だけだ。期せず仰向けになった、多少驚いた様子のグラハムの上へ、ニールは這うように覆い被さる。
もういい、乗ってやる、と思う。いいようにされてばかりも癪だ。
ニールの翻意を理解すると、グラハムは、それは楽しげに、好戦的に笑った。

「愛おしいな姫」
「今言うか、ちくしょう」

グラハムの腰を跨ぎ、その顔の両脇へ、ニールは肘をつく。疼く背筋には上体を起こしきる力はとうにない。
自分の影になったグラハムを見つめながら、腰だけで男の反り立った部分を探った。気の勢いだけでニールは深々と招き入れる。互いに息を飲んだ。苦悶を知ったように、しかしそれも一瞬で忘れて、悦楽に浸る。

「っあ…、はっ、」

一心にニールは身体を揺すった。独りよがりでないことは、抱き締めてくる両腕が証明する。
肌が吸い付きあって、同じ下向きでもずっとニールの景色はいい。
途切れ途切れに名前を呼ぶと、グラハムは言葉は返さず、ただ目を細めて見返す。余裕がない。
常は巧みに言葉を並べる唇がただ危なげな呼吸を繰り返す時、剥き身の生を見る心地がした。それが愛おしくて、ニールは心中まがいの口付けをする。
酸素を奪うように重ねる口の端から唾液が溢れて、接合部からは相変わらず粘液が飽和する。下へ流れるそれらは今、シーツではなくグラハムを汚す。潔癖そうなのに、あまねく受け入れて、耽溺して。全て、たらし込んだのはニールだ。
つたなく酸素を求める間に、ニールは囁く。

「出せ、奥に、ぜんぶ」

唾液を飲み込んでグラハムは腕の力を強めた。何を思っているだろう。ふしだら、堕落、インモラル、なんだっていい。とにかく、真実、全部が全部欲しくて堪らないのはこの男だけだ。受け止めきれなくとも注がれたい、そんな自分勝手で自己中心な望みをさらけ出すのも。
怒涛の押し寄せに肩を上げ、ニールは目を瞑る。
嵐のような波がくる、白い泡が立つ、この身が消える錯覚。
だくだくとしたものを感じながら、暫し後、グラハムの囁いた言葉にニールは笑った。






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